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【ほぼ百字小説】(4838) 気配を感じて振り向くと、何かが物陰に身を隠す。子供の頃からずっとそうで、それは少しずつ近づいてきている。だいぶ近くなったが、いつかはっきり見えるのかな。どうせなら最後にその姿をはっきり見たいものだが。

【ほぼ百字小説】(4837) 双子じゃない。一時間前に戻ることができただけ。それで一生分の金を稼ぐことはできたが、身分証明はひとり分だから、ひとりのふりをして一緒に暮らしている。もう慣れた。今さら一時間後に帰りたいとは思わないな。

【ほぼ百字小説】(4835) 地図を片手に待ち合わせ場所へ来てみると、なぜかそこは舞台の上で、どういうことなのかわからないままに見回すと客席は満員で、それならわからないままなんとか続けるしかないか、と気を取り直したところで、暗転。

【ほぼ百字小説】(4831) 最近、ごとごとと天井裏が騒がしい。覗いてみると、そこには大量の小さな宇宙服が。これを作っている音だったのか。脱出する準備か。この船は危ないのか。皆で顔を見合わせる。誰かが、宇チュー服だな、とつぶやく。

【ほぼ百字小説】(4830) まあいちどくらいは恩返しを、と物干しの亀が言ったが、乗せていってくれるのではなく電車、竜宮城ではなく大阪城。天守閣への入場券は自分で買った。しばらく景色を眺めて電車で帰ってきた。そんな亀は今、冬眠中。

【ほぼ百字小説】(4829) テントが開くと舞台の向こうに夜が見える。いつも思うことではあるが、舞台の背景としての夜は、普段見ている夜よりも、大きくて広くて深くて暗い。配られた毛布にくるまって、テントの中からそんな夜を眺めている。

【ほぼ百字小説】(4828) 環状線で京橋、そこから京阪電車で終点の出町柳、叡山電車に乗り換えて宝が池で下車、宝が池公園の中に立った特設テントで芝居を観る。とくに待ち合わせたわけでもないのに、客席にはひさしぶりに見る顔がいくつも。

【ほぼ百字小説】(4826) これだけ大きくなるともう少々大きくなっても目立たない。倍になったあたりからあまり騒がなくなり、大きくなっていくのが当たり前に。むしろ大きくならなくなったときすべてが終わるのでは、と不安になっていたり。

【ほぼ百字小説】(4825) 角を曲がったところにある更地の真ん中に、ぬぼ、と立っていた。冷たい雨の降る薄暗い午後だからか、なおさらそれらしくて、なるほどこういうふうに立てば幽霊っぽいのだな、とそのセイタカアワダチソウを凝視する。

【ほぼ百字小説】(4824) こんな雨の日には、海が現れる。水溜まりに映った空は海の上に広がる空になり、それに応えるように水溜まりは大きな波のうねりを出現させる。海だった頃を思い出しているのだ。よく憶えている。昨日のことのように。

【ほぼ百字小説】(4823) 今日も散水車がやってきて、地面に水溜まりを作る。水溜まりには、空が映る。大きな水溜まりには大きな空が、小さな水溜まりには小さな空が。そんな空と空の間を我々は飛行する。我々の姿は、水溜まりには映らない。

【ほぼ百字小説】(4822) 昨夜の雷はすごかった。どっかんどっかん落ちていた。いつも歩く路地にはまた更地ができていて、その真ん中の水溜まりで、空に帰りそびれたやつが、ぴちゃぴちゃばちばち放電している。あとで電気だけ拾いに来よう。

ほぼ百字小説】(4819) 回し車式居住区画は、その回転によって疑似重力を作り出す仕組みで、回転のための動力としてハムスターたちが使用されることが多く、回し車式居住区画のある宇宙船では大抵、それを制御するための猫が飼われている。

【ほぼ百字小説】(4818) 駐車場を抜けるとかなり近道なのはわかったのだが、問題はいつも猫が三匹いて、こちらを睨みつけてくること。猫も三匹揃うとその眼力は無視できず、なんとかその視線が集中しない軌道を模索中。猫の三体問題である。

【ほぼ百字小説】(4817) 夜の川を小さな船で流れていく。殺される前に流された。殺される理由はいろいろだが、川に流されて難を逃れるところは同じ。同じ話は世界中にあって、その子が世界を変えるところも同じだな。葦船の中で考えている。

【ほぼ百字小説】(4815) ああ、あんなふうにアホなことを真剣にやれる大人になれたらいいな、などとよく思っていたものだが、六十一歳の今、真っ昼間に演出家とサシで、魚の頭を被ったままシャボン玉を吹く練習をしているぞ、あの頃の私よ。

【ほぼ百字小説】(4814) トランペットをうまく吹くには、キスするように唇をマウスピースにあてろ、と言ったの誰だっけ。しかしまあ、そっちの経験が乏しい者には役に立たないアドバイスだ。シャボン玉をうまく吹く方法を模索しながら思う。

【ほぼ百字小説】(4813) 舞台の上でシャボン玉を吹くのだが、なかなかうまく吹けなくてどうしたものかと困っているところに、玄関の隅から娘が幼い頃によく吹いていたシャボン玉液の瓶が出てきて、つまりそういうことだな、と玄関で練習中。

【ほぼ百字小説】(4812) 舞台の上では何にでもなれる。老婆にも魚にも、それどころか、波にも風にも。それとして観測してもらえるから。ただ、自分にだけはなれないなあ。前はそう思っていたが、そもそも自分なんかなかった。舞台の外にも。

北野勇作 さんがブースト

屋根修理詐欺の件。プリウスにキャリー載せてハシゴ積んで、4人でこの辺りを回っている。
杉並区のWebサイトを印刷して掲示板に貼っとくかな。

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