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【ほぼ百字小説】(4811) 魚として歩くのはなかなかに大変だとわかったが、考えたら魚なのだから当たり前。にもかかわらず、なぜわざわざ魚として歩くのか、というのも、我々が今ここにいるのは遠い昔そういう魚がいたから、だから当たり前。

【ほぼ百字小説】(4809) 路地を魚が歩いている。二本足でガニ股で口をぱくぱく動かしている。空気中でも呼吸できるんだな。今さらながら思う。魚は、業務用スーパーに入っていった。そう言えばこの前、鮮魚コーナーの水槽の前に立っていた。

【ほぼ百字小説】(4808) 寄り添うように並んでいた月と木星だが、今はそんなことなどなかったかのようで、あの並びをまた見ることはあるのかなあ、と思いつつも、どうせあるだろうと安心していて、でもそのときにはもうこっちがいないかも。

【ほぼ百字小説】(4807) 月の船だと聞いて見に来たが、なるほど月の船だ。空き地の低い空に船の形で浮かんでいる。立ち止まって眺め、しばらくいっしょに歩き、走り出したらいっしょに走ってくれたが、去りゆく船をむなしく追っている気分。

【ほぼ百字小説】(4804) 楽屋に魚の頭が。すっぽり被れる大きさで、ここは私が使うものを置くところだから、私が被るものなのだろう。ドア越しにごぼごぼごぼと泡の音が大きくなる。あのドアが開いたらきっと海底だ。あわてて魚の頭を被る。

【ほぼ百字小説】(4803) 切り裂いて、折り畳んで、踏みつけてさらに平らにすることで驚くほど小さくできる。べつに憎くてそうするわけではなく、ゴミ袋に入れて捨てるためにはそうするしかないから。まあこの世界の終わりもそんな感じかも。

【ほぼ百字小説】(4802) 洞窟を壊しに行く。紙と木で作った洞窟だ。洞窟で過ごした者たちが集まって、同じ時間を過ごした洞窟を解体していく。紙と木を剥がした下から出てくるのは元通りの部屋だが、今ではそれは、かつて洞窟だった部屋だ。

【ほぼ百字小説】(4796) 借りていた台詞、借りていた動き、借りていた視線を返す時が来た。終わってしまえば使わないのだからそれでいいのだが、自分がすかすかになったみたいで頼りない。この自分を返す時は、どんな感じがするんだろうな。

【ほぼ百字小説】(4789) まず始めに、顔を白く塗る。そうすることで暗い中でもそれが顔だとわかるから。それで、相手に顔を見てもらうことができるし、その白の上に相手に見せたい顔を描くこともできる。それが人間になる最初の一歩だとか。

【ほぼ百字小説】(4788) ロングランの公演も、次の出演回で私の出番は終わり。何度も繰り返すうちになんとなくこのままずっと続く気になっていたが、始めから決まっていたことだ。一度しか生きられない生き物の気持ちって、こんな感じかな。

【ほぼ百字小説】(4786) 公園の丘でのんびりしようと思っていたのに、来てみると満員。こんなに大勢の子供を見るのはひさしぶりだが、もうこんなにいるはずがないから本物でないことはわかっている。全員が同じ顔であることに気づく前から。 

【ほぼ百字小説】(4784) 夜走っていて、そういえばこんな晩だった、と思い起こすのは、いわゆるUFOにさらわれ、そこで会った異星人と交わした約束。最近、妻がやたらと不思議な体験談を要求してくるのだが、もちろんその手には乗らない。

【ほぼ百字小説】(4783) 職場に新しい機械が次々に導入され、でもそれらは揃いも揃って蛇腹式。最近の流行りなのか、と呑気に思っていたら、それに合わせるため我々も蛇腹になる必要があるとかで、仕方なくそうした。背に腹は代えられない。

【ほぼ百字小説】(4782) 公園の芝生の上を裸足で歩くのが気持ちよくて、このまま裸足で劇場まで行きたいくらいだがそうもいかず、サンダルを履いて横断歩道を渡る。今回の芝居は初めから終わりまで全員が裸足だ。もうすぐまた裸足になれる。

【ほぼ百字小説】(4780) ロングラン公演だが、毎回同じ軌道で動いているはず。なのに、暗い舞台上で毎回違うものにぶつかったり引っかかったり。もしかしたら舞台上の物が、日に日に増えていっているのか。いや、物だけではなく登場人物も。

【ほぼ百字小説】(4778) 夕暮れどきに三メートルほどもある大女が出る。そんな噂は聞いていたが、実際に出くわすことになるとは。本当だったのか、と驚くと同時に、しかしよく見るとその身長の半分以上は首で、大女というのは話半分だよな。

【ほぼ百字小説】(4776) 空き家になるとすぐ機械たちが来て、そこを更地にして、関係者以外は入れないようにフェンスで囲む。歯や髪が抜けていくように家々は確実に減っていく。人類はまだ滅びてはいないが、もう関係者ではなくなっている。

【ほぼ百字小説】(4775) 見渡す限りの空き地だ。荒野ではなく空き地なのは、どの区画もフェンスで囲まれているから。そんな空き地しかない路地を歩いている。フェンスの向こうで猫たちが安心して昼寝をしている。たぶんもう人類よりも多い。

【ほぼ百字小説】(4774) 世界の中に作られた小さな世界の所定の位置に、雛のようにすっぽりと納まる。薄暗くて狭くて小さな声でも伝わるその世界の居心地はいいが、出ていく日は決まっている。それまで世界から転げ落ちないよう気をつけて。

【ほぼ百字小説】(4773) 暗くて狭い洞窟みたいな空間で、観客は壁の一部となって観ることになる、と聞いてはいたが、実際に壁にされるとは。もちろん、聞いてないよ、とは言えない。聞いていたのだ。目と耳だけはちゃんと壁から出ているし。

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