ひとんちの猫が今朝、旅立った。
十七歳だったひとんちの猫。
田舎ゆえの半外飼いで、うちんちもテリトリーにしてたひとんちの猫。
小鳥の水浴び場に用意した鉢で、喉を潤していたひとんちの猫。
真っ暗なところにいて気づかずに通り過ぎたら、ぶしゃぁと鳴いて「目を合わせず通り過ぎることまかりならぬ」と呼び止めたひとんちの猫。
足元にまとわりついて、靴も靴下もスカートもズボンも毛まみれにしたひとんちの猫。
明後日の方を見ながら尻尾をたゆたゆと足に巻きつけてきたひとんちの猫。
足の甲にごんごん頭突きをかまして来たひとんちの猫。
若い頃は気が強くて人間の手を獲物とみなし噛みついてきたひとんちの猫。
老いても流血沙汰の喧嘩をし、水をあたりに撒いてやっと引き離したひとんちの猫。
それでもなお外を闊歩していたひとんちの猫。
私が撫でているところを飼い主に見られると、バツの悪そうな顔をして、そっと離れたひとんちの猫。
額を指先で掻かれるのが好きで、お尻を叩かれるのは「絶対許さん」のひとんちの猫。
名前を呼ぶとやれやれというように、一声鳴いてからこっちにやって来てくれて、撫でるのを許してくれたひとんちの猫。

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その足取りがだんだんゆっくりになってきているのを知ってたよ。
最後に撫でたひと月前、ずいぶんと痩せてこりこりとした骨が手のひらに当たるようになってた。
薄く細くなっても眼光鋭かったひとんちの猫。
もうパター練習の芝の上で寛いでる姿を見ることができない。

バイバイ、ラピス。ひとんちの猫。
また、どこかで。

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