「別離」
ベルリン映画祭の金熊。監督、アスガル・ファルハーディーは、今もっとも優れた映画の作り手の一人だと思います。「サラリーマン」や「浜辺に消えた彼女」などでベルリンやカンヌの常連でもあるのでご存じの方も多いと思います。
かつて、イラン映画は当局の枠もあり、大人の社会の紛争、トラブルを描くことが難しく、結果として「子ども」の視点から見た優れた映画を輩出しました。
また皮肉にもアメリカとの関係で、ハリウッド映画がほとんど入ってこれなかったことが、国内の映画産業を保護し、次の世代を育てることにも成功しました。
かつてのイラン映画は「地方」の農村を舞台にすることが多かったのですが、ファルハーディは、都市中産階級の「女性」と社会の軋轢を、カフカ風のサスペンス・タッチで描きだすのがうまい。軋轢の結果、法廷闘争がわりと長く描かれ、イランにおける民事訴訟の在り方が垣間見えるのも興味深い。
日本では「悪の枢軸」、女性を抑圧する「イスラム共和国」と決めつける米国製のイラン像が強いようにも感じますが、例えば、イランは女性の大学進学率はとびぬけて高い。それを背景にファルハーディの描く中産階級の女性たちもごく自然に登場するわけです。
またドイツとイランの労働移動が必ず描かれており、これも興味深い。