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『緊張しない・あがらない方法』(鴻上尚史)

俳優の演技のためのメソッドに「スタニスラフスキー・メソッド」というものがあります。本書はそのメソッドを噛み砕き、平易な言葉で、俳優以外の私たち普通の人が日常でも使えるようにするための本です。「日常で演技?」と思われるかもしれませんが、それこそがタイトルの『緊張しない・あがらない方法』に直結しているのです。
私たちは人前に立つときに、つまり緊張しがちな場面では、人からよく見られたいという自意識に囚われているのだと、著者は説きます。緊張から解放されるためには、その自意識から解放されることが必須なのです。では、どうやって? その方法こそがまさに「演技」すること。演技に集中し、五感をフル稼働させることで、自意識を後ろ側へと押しやることができます。
とは言え、演技、普通は意識してすることってないですよね?
本書はそのような普通の人向けの一冊です。演技するため、すなわち五感をフル稼働させるためには「与えられた状況」を事細かに具体的にイメージし、分析し、自らをその状況へと没入させることが重要です。状況を味方に付け、自らを自意識から解放し、緊張から自由になるための方法を本書は詳細に明かします。

『説明組み立て図鑑』自体が、説得的な説明のやり方を実践しているという点だけでも面白みがある。説明は短い方が望ましいという主張を自ら実践して全ての型は見開き二枚だけで説明し切るし、説明には権威を用いるべしと細かな主要や図のそれぞれに出典を明記する(特に出典明記は効果的で、私はそれだけで「この本は信用に足るかも」と買ってしまった)。

私は本書をただビジネスのためだけに読んだのではありません。本書のウラにある認知科学とそれに基づいたオモテの説明方法とは、私が求める別の技術にも転用できるのです。
それは小説の「台詞」の書き方です。ともすれば理屈っぽく過剰になりがちな「台詞」ですが、本書の技術を用いることで、説明くさくない=読書の感情に訴えるものへと昇華させることができると信じるところであります。実作において本書の技術を転用するのがとても楽しみです。

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私は仕事柄、開発者から上は役員にまで「説明」をすることが多いのですが、イマイチ相手に刺さっていないと体感することも多くありました。本書を読んで、その原因の一端が掴めたように感じます。
私は受け手の「感情」に訴える=受け手の立場になって考える習慣が足りていなかったんだと思います。孫子も「彼を知り己を知れば百戦殆からず」と言うように「相手ファースト」なのです。
本書は一見すると80もの覚えきれないほどの説明の型を解説する本に見えるのですが、読み込んでいくと、説明の真髄とはたった二つ。
受け手の「感情」に訴え、そのために受け手を「知る」ことだけなのです。

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『説明組み立て図鑑』(犬塚壮志)

あなたは「結論ファースト」一本槍で説明していませんか? 本書は一般的に説明に有効と言われている「結論ファースト」で上手くいかない大人のために書かれています。「結論ファースト」が上手くいかない理由は、二つあります。
一つ目は、人は「結論=ファクト」だけで動くようにできていないからです。むしろ、ファクトが先に出されることで反感を覚えることすらあります。説明を本当に届けるためには、相手の「感情」にフォーカスする必要があります。本書は、長年にわたって駿台予備校で「説明」してきた筆者が認知科学に基づいて相手の「感情」を動かすための型を解説します。計80の型が収録されていますが、本当に大切なのは、相手の「感情」に焦点を当てることともう一つだけです。
そのもう一つとは、相手を「知る」ことです。「結論ファースト」が上手くいかない理由と重なりますが、客観的なファクトは客観的であるがゆえに動かしようがなく、相手の「感情」に合わせてチューニングできないのです。そして、相手の「感情」に訴えるためには、相手を「知る」必要があります。つまり、相手を「知る」ための事前準備をどれだけ深く行えるかが説明の成否を決めるのです。
説明の究極的なコツとはこの二つだけなのです。

『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ』(武田綾乃)
ギブ

内容としては、とにかく半導体のビジネス!ビジネス!ビジネス! 半導体はビジネスとして生まれたごく初期こそはペンタゴンが最大の顧客であったものの、やがて CEO たちは民生品の需要を重要視するようになる。1970年代だか80年代の話だが、2023年現在にもその構造が続いている。米中の半導体を巡る貿易摩擦もまさにそこが焦点であり、結局、軍事転用されている技術であるにもかかわらず、アメリカ企業にとって(ペンタゴンより遙かに)巨大な市場である中国が魅力的すぎる。それがゆえに中国への技術移転が進んでしまう──。そんなジレンマが現代の米中の摩擦を引き起こしている。現代に関する記述はやや危機感を煽りすぎ感もあったが、歴史をここまで詳細に書いた本はこれが初めてか。

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『半導体戦争』(クリス・ミラー)

半導体関係でお給金をもらっている身としては本当に興味深い内容でした。個人的には、究極のお客様であるインテルや TSMC 、あるいはソニーといった、半導体を製品の製造プロセスに含んでいる(あるいは製品そのものである)企業の歴史を互いに関連付けながら読むことができたのが最大の収穫でした。工学部のエリート達によって生み出された「半導体」という新たな技術がビジネスの種となり、経営者は工学部から会計士に移り、国家の命運を握る鍵となる。その歴史を描いた一冊。

漫画『かくしごと』で、ファンタジーバトルを描こうとしてた漫画家志望が指摘されてた「読者が息を止めて読めるところまでで世界観を立ち上げろ」(大意)ってメチャ重要な指摘なんだよな。

やっぱり、初手はアクションなり大立ち回りなりクソデカい画なりで、一気に、読者に疑問が生まれるより前に、世界観を流し込まないといけないんだよな。世界観の立ち上げはチンタラやってちゃダメで、とにかく速くないといかんな。

【読みどころ】
・メインキャラクター全員を使った立ち回りで一息に全員のキャラ=能力を立てた点。とにかく立ち上がりが良かった。
・↑の上で、第一幕の終わり=第一プロットポイントでは主人公とその相棒に焦点を絞った立ち回りを描くことで、自然とキャラクターへの没入感を上げた点。読者の関心をコントロールするのが巧みだった。
・死者を操る〈死霊術〉が存在するファンタジー世界における政治家の葛藤=異能を公に知らしめるか隠し通すか迷う心理を第一プロットポイントの前に配置し、まさにここに切り込むことが物語の核になることを示唆することに成功した点。単なる立ち回り=アクション以外にも読ませ所があることを端的に示している。

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『嘘つき少女と硝煙の死霊術師』
途中まででギブ。

公開範囲など諸々間違えていたので再投稿

ループものでは「やり直すことで人を救う」は割と定番なのだが、一種のレスキューとしてループ者を組織化したところに読みどころがある。
ループものの構造的な難点のひとつに「自覚あるループ者が限られている場合には、物語の語り手/語り口が制約を受ける」ことが挙げられる。すなわち、ループが起きていることを知っている読者はそれを知らない語り手には没入できない(なぜなら、それを知らない語り手は読者に既に1回起こった既知の情報しか語ることができないため)という難点があるのだ。さらに噛み砕くと、読者はループ者の視点から「しか」新しい情報を得られないということ。
本作は、それに対して、ループ者を組織化し複数のループ者を用意することで、語り手/語り口のバリエーションを増やした。一例として、巻戻士の師弟関係やライバル関係を、主人公とは別の視点を用意して立体的に語ることに成功している。
さらにループ者にそれぞれに固有の、時間をループする以外の時間を操る能力を与えている。当然、組織化されているので時間を操る能力を複数人で協力してより複雑化させることができるのだ。これにより、時間エスエフとして極めて奥行きのある読み心地を生んでいる。

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『運命の巻戻士』(木村風太)

テクい! 時間を巻き戻せる「巻戻士」がレスキューをループすることで、本来死に至るはずだった人々を救う時間エスエフ。巻き戻し能力が精神の疲労の生むために、巻き戻し回数が制限されている=ループの有限性が際立つ。漫画としては、厳格に定められたルールのあるループで緊張を維持しつつギャグ的に笑わせにかかる緩和を挟んで、緊張と緩和を使い分けている。また、優れた巻戻士ごとに(時間に関連した)固有の能力が与えられており、主人公こそまだ開眼していないのだが、ゆえに成長物語として読者の関心を引いている。今後に期待。

藤谷さんのマネージャー、うちのマネージャーだった?

【感想】
面白いっ! キャラクターが誰も彼も魅力的で、謎解きが回を重ねるごとに次第に深みを増していくところはテクいですね。続刊もあるとのことで、全てが終わったらこの続きも読みたくなるほどでした。たぶん、研究のために今後も何回か読み返すことになると思いました。

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【読みどころ】
・キャラクター全員のキャラが立っていて、読んで好きになれる。
・青春ミステリとして王道の謎解きを提供しつつ、謎解きをキャラクターの魅力に奉仕させることに成功している。
・静かな推理シーンからアクションシーンまで文章のテンションを使い分け、小説全体の雰囲気を形成することに成功している。

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『ジャナ研の憂鬱な事件簿』(酒井田寛太郎)

【あらすじ】
学園青春ミステリ短編集。ジャーナリズム研究会、通称「ジャナ研」の編集長・工藤啓介は、先代の部長の卒業後、唯一の部員として孤独にそして気楽に学校新聞を運営するつもりだった。しかし、ある日の放課後、山盛りのノートを抱えて運ぶ美少女・白鳥真冬を手伝ったことがきっかけで、その孤独な活動は終止符を打たれることになる。

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