日がなツイッターで"alex murdaugh motive"とかで調べじゃくったり、True Crime Diaryの過去記事を読みじゃくったりしてしまったので、ツイッターもブラウザも閉じて"I Have Some Questions For You"読みはじめることにする。フィクションだし、あとトゥルークライムの取扱というか、我々が消費しているということについて誠実に描かれた本だという評を見たので…
そしてやっぱりどうしても後ろめたさが強まるのでRachel Monroe "Savage Appetites"を読みはじめた。
https://crimereads.com/rachel-monroe-knows-that-women-love-true-crime-because-people-love-true-crime/
黄金州の殺人鬼を読み終わって、ゴールデンステートキラーを追えを再見した。読んでから見ると解像度がまったく変わるな…当たり前だけど。小説からの抜粋が前後の文脈で理解できるし、テレビシリーズも慎重に作られているということもわかる。
そしてやはりトゥルークライムドキュメンタリー/ポッドキャストはリアルタイムで進行する側面があり、リアルタイムであればあるほど、そして他方でアップデートされていればいるほど、guilty pleasure的側面が強まる…。
The Vowのシーズン1/シーズン2も、セックスカルトの告発者らを追い、カルトリーダーが逮捕されるまでを伝えるS1と、裁判と判決を複数の関係者に密着しながら見せるS2で補完されていたし…。
途中で止まっていた"The Twyford Code"を再開したけれどめちゃくちゃおもしろい。ダヴィンチコードをよく知らんのだけど、あれも金塊とかを追う話なの?net sleuthの時代の、児童文学作家版ダヴィンチコードで、暗号解読とか金塊とかエニグマ発見とか謎の黒服の男達とかの、いっそ荒唐無稽にも思える華やかな要素に彩られた冒険譚として展開するが、ベースラインはつねに苦い現実や辛い過去に即しており、エスピオナージュミステリとリアリティが螺旋のように編み込まれている。そしてその骨子には、昔失踪した教師の消息を知りたいという動機が貫かれている。
Alison Rumfitt "Tell Me I'm Worthless" ファシズムやレイシズム、トランスフォビアなどをテーマにしたお化け屋敷物かつボディホラー。冒頭に注意書きがある通り、性暴力や自傷、ヘイト言説が描写されていてきついが、すごく複雑で文学だけができる方法で表現されていておもしろい…。
昔、無人のお化け屋敷に泊まった女性3人。そのうち2人はかつて親友同士だったが、その夜の出来事以来絶縁状態になっている。その2人(AliceとIla)と、お化け屋敷(House)の視点で交互に章が紡がれる。
2人はそれぞれの方法で現在もトラウマに苦しめられている。Aliceは白人のトランス女性で、住んでいるアパートにも心霊現象はついて回り、今は壁のシミを隠すために貼ったスミスのポスターのモリッシー(見られないように目は潰してある)に狙われて(?)いる。
Ilaはユダヤ系とパキスタン系の両親を持つシス女性でTERF。彼女の見解を地の文で読んだり、両親に説明しているのを読むのが今のところ一番しんどい。他方、かつて2人が親友だった頃、Aliceが酔って「イルザ/ナチ女収容所悪魔の生体実験」(ナチスモチーフのエロティック映画)を見せたことがあったり、なんというか、差別の構造とは多層的で複雑なのだと繰り返し描かれる
そして最近のTVドラマシリーズでのミステリーコメディの隆盛、true crimeやnet sleuthのブームへのTVからのアンサーというか、それを受けたミステリジャンルの流れという感じだけどありがたい傾向。マーダーズ・イン・ビルディングはまさにポッドキャストの話だしね。
アフターパーティやバッドシスターズのS2、マーダーズ・イン・ビルディングのS3楽しみだし、ポーカーフェイスも、ライアン・ジョンソンが出演してほしい役者挙げたりしてたしシリーズ化してほしい。ツイッターで流れてた古畑任三郎妄想キャストシリーズも同様の気持ちからだと思うんだけど、やっぱり倒叙は俳優の演技とか、タレントの存在そのものがentertainしてくれるフォーマットなので、みんないろんな人をキャスティングしたくなるよね。
ライアン・ジョンソン製作×ナターシャ・リオン主演でPeacockで配信中のドラマPOKER FACE、最高なので一刻も早く日本にも来てほしい。コロンボとか古畑のような倒叙ミステリドラマで、人の嘘を見抜く特技を持つナターシャ・リオンが、行く先々で起こる殺人事件を解決するという話。
素人探偵(amateur sleuth)物で倒叙って、別に無理なわけじゃないけどどうするんだろ?と思ってたけど、嘘を見抜ける一般人が嗅ぎ回って真相を突き止めるが、確かな証拠はない→さあどうする?という流れが物語のフックになっており、シリーズの魅力になっている。トリックもよくあるけど凝りすぎていなくて説明不要なやつで良。
ナターシャ・リオンは命を狙われて逃亡中で、その道中で毎回事件に巻き込まれるというストーリーなので、ロードムービーでもあり、舞台は国道沿いの田舎町が多く、登場人物の多くは場所や状況にstuckしている人たちだというのもライアン・ジョンソンっぽいというか、苦くて血が通っていて信頼できる好きなところでもある。
Parini Shroff "The Bandit Queens" なぜかUSアマゾンでは普通に売ってて(検索してもヒットしないけど日本アマゾンでも買えるらしい。なんなん)、読みはじめた。
Geetaはクズ夫が失踪してから「彼女が殺したんだろう」と思われ、失踪直後には親しかった親戚からひどい仕打ちを受け、今も村では遠まきにされ、かといって都合のいい時だけ利用されるし、その理不尽さはなんというか①たぶん世界共通の人間のみみっちさや醜さとして、②殊にアジアにおける封建的家父長制の発露として、わかりみのあるものでもある。
そしてその中で彼女は生きていく知恵として他者と必要以上に関わらないようにしているが、Farahの頼みごとを断り追い返した直後に、彼女を引き止めておしゃべりして、互いの体験を語り合いたいという衝動に駆られるというの、苦くて最高じゃん…。
また、タイトルにもなっている「盗賊の女王」プーラン・デーヴィーをロールモデルとしてというか偶像化して、自分のしんどい境遇を楽しむようにした、というくだりも苦いポジティヴさで、マジでこの世はクソだが良い…
"The Mysterious Case of The Alperton Angels"も読み終わった!おもしろかったー。
あとがきの謝辞にHBOの"I'll Be Gone in the Dark"(「ゴールデン・ステート・キラーを追え」)を見てインスパイアを受けたとあって納得した。
ハレットの、「地の文」がある普通の小説形式ではなく、メールや記事やインタビューや手記、小説、脚本などをつなぎ合わせた書類の束であるという設定を取る手法自体が、謎解きへの手がかりを寄与し、同時にその手法ゆえに手がかりという木の葉を小説という森に隠す煙幕にもなっていて、この手法が最も噛み合った本だと思った。
現実の苦さや危うさ、過ちが複数の次元で描かれ、エンターテイメント性と同時にざらっとした感触が後に残り楽しかった。
Maria Dong "Liar, Dreamer, Thief"
https://www.amazon.co.jp/dp/B09ZDK4PWR
今試し読みしてるのはこの本。主人公のカトリーナは韓国系アメリカ人で、職場の同僚カートに執着している(が、本人曰く「ストーキングじゃない」)。またこの執着は彼女にとって、幼少期に好きだった絵本の世界の空想に入り込むのと同様に、不安やストレスへの対処メカニズムになっている。だがある日、カートが彼女が全部ぶち壊した、という言葉を遺して自殺する。そして彼女がこれまで集めてきた手がかりを調べ直して見つけたこととは?というような話。
カトリーナの不安やストレスへの対処法、空想の構築の仕方などにリアリティがあり、ミステリ/スリラーというだけでなく、「メンタルヘルスの繊細な探求でもある」("a sensitive exploration of mental health")。例え現実世界への対処に役立っているとしても、空想の世界に耽溺することに対して感じる罪悪感とか、いかに思考が揺蕩い、些細な要因によって努力してコントロールした落ち着きが霧散して不安感が増すかとか、そういう語りの切実なリアリティ。
尊敬するファンガールはミザリー