なんていうか、精神的な健康が損なわれてしまっている状態の人物が描かれたフィクションを読む時に、物語の良し悪しとは関係なく(というか、そういう反応が生じるような物語は全部良いと思う)、自分も不安な状態になるか、それともなぜか元気や勇気をもらえるか、またはそのグラデーション、ということってあって、その違いは他のフィクションにおいても、本当に些細な点で揺らぐと思うんだけど、その薄氷の上を慎重に進んでいくような印象。それは多分、カトリーナの感情の上下を読者もそのままなぞっていくから。
あと、彼女が幼少期に好きだった児童書というのが、韓国系の少女が主人公のファンタジーで(というか韓国で書かれた作品の英訳で、訳のクオリティはいまいちらしい)、夢中になったのはそのためだけではないが、自分をrepresentされていると思えるロールモデルの存在が子供にとって重要であることがわかりとても好き。これは買って読んでみようかな…
読み終わった。前半は不安障害、強迫神経を丁寧すぎるほど丁寧に追い、彼女の心理やそう感じるに至った状況を詳細に説明して苦しさを追体験させていて、こんなにわかりみのあるお仕事小説はない、孤立していて病んでいるが派遣社員ゆえ社会保険が良くない…みたいなワーキングプア小説で、後半は前半の布石が回収されるサイコスリラー/クライムミステリーになっており楽しかった…。この著者インタビューでもジャンルを横断していると言っている(強いて言えばジャンルの横断性からしても韓国ドラマに近いかも、とのこと)。
https://paulsemel.com/exclusive-interview-liar-dreamer-thief-author-maria-dong/
クラシック音楽の選曲や韓国文化への言及も、単純に読んで楽しいしイメージを喚起するがそれだけでなく、物語やカトリーナの心情に寄り添い効果的だし、わたしは各章の冒頭に作中作が書かれている小説が大好きだけど、「見知らぬ人」(エリー・グリフィス)とこの小説が二強で好きかも。そしてタイトルの示唆…なにかに異様にobsessしてしまった3人…。
著者はスタンドアロンのつもりで書いていて続編を望む反響に驚いたとのことだけど、サンダーの半生のスピンオフとかめっちゃ読みたいじゃん。
序盤で「まじでそれな」というフレーズ…