Maria Dong "Liar, Dreamer, Thief"
amazon.co.jp/dp/B09ZDK4PWR
今試し読みしてるのはこの本。主人公のカトリーナは韓国系アメリカ人で、職場の同僚カートに執着している(が、本人曰く「ストーキングじゃない」)。またこの執着は彼女にとって、幼少期に好きだった絵本の世界の空想に入り込むのと同様に、不安やストレスへの対処メカニズムになっている。だがある日、カートが彼女が全部ぶち壊した、という言葉を遺して自殺する。そして彼女がこれまで集めてきた手がかりを調べ直して見つけたこととは?というような話。
カトリーナの不安やストレスへの対処法、空想の構築の仕方などにリアリティがあり、ミステリ/スリラーというだけでなく、「メンタルヘルスの繊細な探求でもある」("a sensitive exploration of mental health")。例え現実世界への対処に役立っているとしても、空想の世界に耽溺することに対して感じる罪悪感とか、いかに思考が揺蕩い、些細な要因によって努力してコントロールした落ち着きが霧散して不安感が増すかとか、そういう語りの切実なリアリティ。

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なんていうか、精神的な健康が損なわれてしまっている状態の人物が描かれたフィクションを読む時に、物語の良し悪しとは関係なく(というか、そういう反応が生じるような物語は全部良いと思う)、自分も不安な状態になるか、それともなぜか元気や勇気をもらえるか、またはそのグラデーション、ということってあって、その違いは他のフィクションにおいても、本当に些細な点で揺らぐと思うんだけど、その薄氷の上を慎重に進んでいくような印象。それは多分、カトリーナの感情の上下を読者もそのままなぞっていくから。
あと、彼女が幼少期に好きだった児童書というのが、韓国系の少女が主人公のファンタジーで(というか韓国で書かれた作品の英訳で、訳のクオリティはいまいちらしい)、夢中になったのはそのためだけではないが、自分をrepresentされていると思えるロールモデルの存在が子供にとって重要であることがわかりとても好き。これは買って読んでみようかな…

読み終わった。前半は不安障害、強迫神経を丁寧すぎるほど丁寧に追い、彼女の心理やそう感じるに至った状況を詳細に説明して苦しさを追体験させていて、こんなにわかりみのあるお仕事小説はない、孤立していて病んでいるが派遣社員ゆえ社会保険が良くない…みたいなワーキングプア小説で、後半は前半の布石が回収されるサイコスリラー/クライムミステリーになっており楽しかった…。この著者インタビューでもジャンルを横断していると言っている(強いて言えばジャンルの横断性からしても韓国ドラマに近いかも、とのこと)。
paulsemel.com/exclusive-interv
クラシック音楽の選曲や韓国文化への言及も、単純に読んで楽しいしイメージを喚起するがそれだけでなく、物語やカトリーナの心情に寄り添い効果的だし、わたしは各章の冒頭に作中作が書かれている小説が大好きだけど、「見知らぬ人」(エリー・グリフィス)とこの小説が二強で好きかも。そしてタイトルの示唆…なにかに異様にobsessしてしまった3人…。
著者はスタンドアロンのつもりで書いていて続編を望む反響に驚いたとのことだけど、サンダーの半生のスピンオフとかめっちゃ読みたいじゃん。

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