“人間が永遠なる運命を有するという事実は、ただひとつの義務だけを要請する。すなわち敬意という義務を。この敬意が虚構ではなく現実において具体的に表明されてはじめて、義務はまっとうされる。さらに人間の地上的な欲求という媒介によらずして、この敬意が表明されることはない。”

 “この点で人間の意識が変化したことはない。何千年もまえのエジプト人たちは、死後に魂が「わたしはなんぴとも飢えで苦しむままに放っておいたことはない」といえるのでなければ、魂の義しさが認められることはないと考えていた。すべてのキリスト者は、ほかならぬキリストの口から「わたしは飢えていたが、あなたは食べものをくれなかった」と宣告される危険にさらされていることを知っている。だれもが進歩というと、まずは人びとが飢えに苦しまないような人間社会の状態への移行だと考える。”

 “自分に救う手立てがあるときに、だれかを飢えの苦しみのうちに放置しない。これが人間に対する永遠なる義務のひとつである。”

根をもつこと (上)iwanami.co.jp/book/b246899.htm

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 “国家は冷たい存在で愛の対象たりえない。その一方で、愛の対象たりうるいっさいを抹消し解消する。かくてわれわれは国家を愛せよと強いられる。ほかになにも存在しないから。これこそ現代人に課された精神的な呵責である。”

 おそらくこれが、各地に出現し、大衆の度肝をぬいた指導者という現象の真の原因である。目下、あらゆる国で、あらゆる大義の名のもとに、個人的な忠誠をよせられる人間が存在する。国家の金属的な冷たさを押しつけられて、人びとは対照的に血肉をそなえたものへの愛に飢えるようになった。この現象はまだしばらくは終わるまい。現状でもすでに破滅的な結果に見舞われているのだが、今後もまだ苦痛にみちた驚きが待ちうけているかもしれない。いかなる人間素材からでもスターを製造するハリウッドでは周知の技術のおかげで、いかなる人間でも大衆の讃美を手にいれられるのだから。”

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