別にジジェクの肩を持つ義理なんかないんだけど、2016年の大統領選での彼の「トランプ支持」(と思われているが、実際にはそうではない)発言に関しては、本人のその後の弁の通りアイロニーだったと思うし、そうとしか読み取れなかったけどね。私はむしろこれ見よがしにヘルダーリンの引用したり下手な予防線を張っているように見えて、皮肉としてはまったく腰が退けていると思ってた。「いいですか、これはアイロニーなんですよ」とあらかじめ言われても、おもしろくもなんともない。普段はミスリードを積極的に誘ってくるくせに、この件に限っては誤解を恐れているな、ビビってるな、と。皮肉って読者を挑発し、反感や怒りを喚起するようなものじゃなくちゃいけないでしょ。両義的・多義的に読めるようなものじゃなくちゃいけない(だから石川義正さんの「彼の主張ってスティーブ・バノンのレーニン主義とどこが違うの」って指摘はジジェクに対して好意的でさえあって、ある意味では正しいと思う)。で、このへんの微妙なスタンスをデリダ研究者の森脇透青さんが「極左をちらつかせながら実際には中道のようなやり方だから(イスラエルの件に関しても)芯が定まらないし、ぶれる」と評価しているのも、アイロニーというものの本質、つまり両義性についての核心をついていると言えるんじゃないかな。

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むちゃくちゃ誤解を恐れて発言したら、恐れた通りの誤解を本当に招くことになった、というのも、旧Twitter上でやたら流れてくる字幕つきのショート動画以上に彼の「芸人」っぽさを感じさせ、個人的には微妙な印象。ついでに言うとジジェクが結局ナショナリズムから脱け出せないのは、それがヘーゲルの結論だからでしょう。でもそこで悪戦苦闘している様は端で見ていてどんなに滑稽でも笑っちゃいけないと思ってる。なぜなら現在ガザで起こっていることは日本でも多くの人たちがそう考えているように、ヨーロッパの近代そのものを揺るがす出来事だからです。

なお一つ付け加えておくと「悪戦苦闘してる」というのは願望込みの想像です。「悪戦苦闘していて欲しい。せめてその程度のトライアルはあって欲しい」という、私の勝手な。実際のところはもちろん知らない。

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