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『緑の光線』観た

バカンスを一人で過ごせない女性、どんどん拗らせる。
人生にとって恋人ってそんなに必要だろうか?というのは置いておいて。周囲の人間が、今恋人が必要な自ら行動するのも必要じゃない?と助言するのも頷ける程、どうも状況に受動的な主人公デルフィーヌ。ついついそうも言いたくなる、彼女の不貞腐れた様子…。助言の中には、一人で過ごす旅もいいものだよというのもあるが、二言目には、旅先で出会いもあるかもだし、人生ずっと独り身ではないんだし…と続けられる息苦しさ!この欧州のシングル人生は駄目という価値観を目の当たりにして、主人公が段々気の毒に。
そう、主人公は不貞腐れてはいるが、規範や欲の中で自分の感情や意志を明確にできない、言語化できなくて苦しみながら拗らせていく心理は、とっても理解できて可哀そうになるんだよね。自分には人に与えられる価値が無いから孤独なのだというね…そんなことはないんだよと、声を掛けたくもなる。
それでも、何とか語りだして、偶然に乗っかって、緑の光線を見にいこうと踏みせた時、心が形になりはじめた時がなんとも愛おしい。

「自分自身と他人との触れ合いをとりもどそう」と作中で教えてくれるの、親切だな。

『ソルトバーン』観た

これ、上流階級・実家が太い人間が放つ屈託のない優しさで、しかし見えない境界線が引かれている悪意のない残酷さもあるやつなのだろうな、これは下流の者の愛憎を煽るよ…と思っていたらやはりそういうお話だったので納得。『太陽がいっぱい』の親戚の様な。その愛憎の苛烈さがバリー・コーガンによって湿度高めでねっとり増幅されてくるの、面白いね。

主人公オリヴァーの上流の同性の友人フェリックスに対する欲望が尋常じゃない、同一化したい域に達しているのが独特で大変面白かったのだけど、やや奇を衒っている印象を受けたのと、オリヴァーの"裏"が見えても、じゃあ彼の強烈な欲望の源泉は一体どこに?と疑問のまま最後まで話が走っていくのが、ふわっとしていたかなと感じた。オリヴァー側の心理スリラーというより、上流の人々はいまこれが怖いんだスリラーに見える気がして。

バリコを最大限堪能できる作品としては、本当に良いですね。今回は裏がある役だったので、彼の心理の動きの詳細は読ませない、でも今確実に情念が発酵している…な演技の上手さが効いているよね。歩き方でも全然違うんだよね。そして今回は何でもやってくれたなぁ。
最後のダンスはね、気持ちがわかる気がした。『帰らない日曜日』を思い出した。

『ある少年の告白』感想続き
性的指向に関係なく、また二者の間に関係を深めたいとする雰囲気があったとしても、同意がなければ強制性交であること。
マイノリティで悩みを持っている弱者でも卑怯で卑劣なことはする。
性被害の告白を強制されるのは問題、ましてや性的指向とその被害自体は関係づけらるものではないこと。
主人公がそれらの外的事象およびそれに関する思考と、自身の内にある思考や心理を混ぜないこと。それらの描写があるのが、しっかりしているなと感じられて良かった。被害は本人の罪ではないし、性的指向も罪ではない。

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『ある少年の告白』観た
ある出来事を契機に、キリスト教系LGBT矯正施設へ送られた青年の苦悩と告発。実話ベース。
主人公の動揺・苦悩と闘いを見つめながら、施設の実態と彼に何が起きていたかを知るミステリー的要素も。キリスト教の牧師家庭で、父親・母親・息子が各々の立場で教義と心情に苛まれ、関係が歪んでいく様は見応えがり。皆上手いし、視線など内心の表現・撮り方が安定していた。保守的信仰が篤い人には難しいとは理解するが、正しいとはとても言えない。
矯正を騙った虐待であることは明らかなのだが、ではなぜそれを行うのか?というと、単に信仰や金銭的利益目的だけでなく「正しい事をしている実感」の為では…と思うのですよね。そうでないと、ああも熱心に運営管理しないのでは。守秘義務を持ち出すあたり自覚もあるのだろう。本当に人間は厄介だと思う。
虐待や理不尽をされるのが問題なのは大前提で、決断し抵抗し闘う勇気を出さねばならない時はあること、それでも味方がいなければ貫けないこと、を重く感じた。施設でのその後を伝えられた彼は、主人公の別の未来だったのだろう。危険な気配の中を主人公が決断できず進んでいく様がつらかった。ルーカス・ヘッジズ君は、繊細で不安定でも内省し闘う強さがある性格を演じるの上手くて、本当に良いよね。

『シャクラ』観た

ドニーさんなので是非とも観る、ということで全く情報を入れずに観ましたが、武侠物時代劇ファンタジー演出ありという感じで楽しかった。武侠物結構好きなんだよね。
アクションは剣戟も体術もさすがで、満足感ありで楽しかったのだけど、いきなり拳から炎や波動が出たりする演出ともちろんワイヤーアクションなので人を選ぶのかな。私はこれも結構好きです。だってもう降龍十八掌!とかバチバチに決めるのワクワクすぎるよ。派手波動演出とドニーさんが若作りということで『かちこみ!タイガー・ドラゴン・ゲート』を思い出しながら観たり。あれ、なんだか忘れられなくて…
原作が人気の長大な小説ということらしく、それを映画にしたことから、情報量がかなり多いのにざっくりしているけれど、話に乗ってしまえば爆速展開も面白く見れる。恩讐とか悲願がね…なんかすごいのよ。誰に信じて貰えなくとも正道を貫くのが真の英雄という話とは言え、頼れるリーダーのはずなのにあまりに誰も彼を信じないし悪し様に言うので動揺…なぜそこまで…。しかし、武侠らしい義断の盃からの大乱闘とか爆上がりの展開などがあって楽しかったですね。喬峯というかドニーさんの強さが異常!という期待したものが確かに見れて楽しかったー

『コカイン・ベア』観た
輸送事故により森に投棄されたコカインを熊が摂取してしまったら、ハイな熊が人を襲うんじゃね?ってことで、確かに熊のコカイン摂取への欲望により人が次々に襲われていく!飛ぶ血しぶき!なのだけど、意外とテンポがまったりしていて、期待した緊張感には足りなかったかな。中盤の救急隊が到着するあたりのテンポ、緊張感、惨劇のユーモアは良かった!聴診器を使ったアレは声出して笑った~。あれは面白すぎる!
東屋の攻防も、関係性が動く緊張感があって、なかなか面白い場面。それ以外が思ったよりおとなしくて惜しい。悪くないんだけど。
登場人物が多くて、それぞれの事情で次々と熊の森へ集結し、そして皆がどうやら人生を次に進ませていきたい気分である。さてそれなら誰が生き残るのか?という楽しみはあるし、最初の方で、おやこれは友情のドラマがあるっぽい?と思ったらやっぱりあるので、その辺は意外と良かったです。人生の打開も終了もクスリ欲しさの熊次第。まあ大変。
熊の凶悪さ、爪の破壊力などが一応描かれていたのは良かったよ。きちんと鋭かった。今年は熊の報道が多かったこともあり、噛み攻撃も強力だけど、熊はまず速さと爪の威力が特に怖いと思っていたので。

『ポトフ 美食家と料理人』観た

1880年代を舞台に、美食家ドダンと料理人ウージェニーの料理と愛の人生。二人(と下働き)がきびきびと動き熱を込めて料理を作る様子がじっくりと描かれるのが良い。手間を惜しまず、素材を贅沢に使い旨みを引き出す料理の数々。美食倶楽部の面々も美味しそうに堪能するので、こちらの胃も刺激される。

観ていくうちに、二人にとって料理を作り食べることは芸術であり思想であり、それこそが生活で人生なのだという事が分かってくる。のだけど、こういう食、料理に情熱があり理解する能力がある人間以外はお呼びでない感じがあり、少し冷めた感じで観てもいた。美しく素敵には思うのだけど。なので下働きのヴィオレッタの気分で観ていたかも。彼女が時折微笑みながら働き、見つめているのに親近感。

それでも、二人の関係を進める決意をしたウージェニー、共に料理を作り上げる関係こそが最上の人生で幸福じゃない?と考えるウージェニーに答えたドダン、彼らの優しさと敬意ある関係は愛おしく素敵だと思えた。かけがえのない彼らだけのパートナーの形。

映像、音、光が大変繊細で美しくて、惜しみない料理への情熱の息づかいを楽しめた。

『帰れない山』観た

イタリアの山間で12歳で出会い繋がった男二人の友情の軌跡。そこに確かに友情はあり寄り添って過ごしたけれども、人間は絶対的に孤独なのだろうと思い知るようで、寂しい映画だったな。良かった…

山の民として生きる者と、山を愛しているが山の民のようには生きれない者。二つの生き方の差というよりも、人生の速度やタイミングがそれぞれであったことによる悲しさを強く感じる。主人公が「共有した時間はなんだったのだろう」と言うが、そんなこと言わないでよ…とものすごく悲しくなった。主人公の居場所の定まらなさの苦しみは手に取るようにわかるが、ブルーノの苦しみは見えにくいんだよね…彼がもっと語る言葉を手に入れていたなら、何かが違ったのだろうか。

大人になってからの友情は淡白に見えるけれど、会わなかった期間があるし、12、13歳の頃の距離の縮まりとお互いを理解してる様子があるので、いい関係だなと見えた。お互いにうっすらとした憧れや嫉妬を持ち続けたんじゃないいかな…なども思う。

登山中人物をカメラが後ろからとらえるが、それが雄大な山々と接しながらも内に内にと内省している、人間の自然との向き合い方を写しているようで良かった。山々の風景が素晴らしくて、自分も山と向き合いたくなる。

『マエストロ』他には
指揮シーンは少な目だったと思うし、私は詳しくないけれど、終盤の指揮シーンなんかはブラッドリー・クーパー熱演って感じで素晴らしかったと思う。本人にかなり寄せてるよね?わかる人にはわかるのだろうな。で、そこからフェリシアを流れね。上手いね。

キャリー・マリガンもが良いのは当然なんですが、彼女の怒りの演技が好きなので、今作では感謝祭のシーンがかなり好きです。

指揮者ものとして『TAR』と共通するような行動があって、やはり芸術家はそもそもそういう所があるものなのかなーなどと思う。

ブラッドリー・クーパーは、バーンスタインに共感するところがあって撮ってたのか、それとももうすこし距離のある関心があって撮ったのか、というのも思いますね。表現者と創造者の外向内向の話なんか特にね。

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『マエストロ:その音楽と愛と』観た

バーンスタインの芸術面というよりもその人物像、彼と妻フェリシアの愛情の話であったのだが、恐らく意識的にドラマチックにしない、夫婦愛といっても哀愁が漂う愛ある関係の難しさの視線での話で、個人的には面白かった。バーンスタインになりきったブラッドリー・クーパーも大変良かったし、何しろキャリー・マリガンが素晴らしい。言葉にしない感情の表現が好きですね。二人の会話の親密そうなのが(説明しきらない台詞なのもあるが)、観ていて本当に面白いし心地よかった。
バーンスタインなりきりと言えば、メイク、メイクが凄い。本人の顔はきちんと認識していないが、ブラッドリーであってそうでない具合が見事。皮膚の質感も見事すぎて、初アップ時の老けメイクの自然さにちょっと驚く。メイクはカズ・ヒロさんと後で知って納得だった。
一番面白かったのは、技巧を凝らした映像。色々全然詳しくない自分でも、凝りに凝ってる~!とわかる。ショットや画面サイズに質感、白黒とカラーの切り替えなど、上手いんだろうなぁ。映像については特に、本当に観ていて楽しかった。
音楽も詳しくないですが、全編バーンスタインの音楽鳴りっぱなしで知ってる人は耳が楽しいと思われるし、実際素敵だった。

『永遠に僕のもの』観た

1971年の実際の事件を元に。所謂サイコパスと思われる青年、「世の中の全てのものは自分のもの」と語るように窃盗が"得意"なのだが、しかし得られないものもあったのかもね、という彼なりの孤独や虚しさに視線を向けた作品かな。

主人公はラモン青年とその家族と出会い次々と犯罪を重ねていく。この家族が窃盗稼業をしているのが自然に語られるのでまず驚く。主人公がこの犯罪者達とも明らかに思考回路が異なるというのも自然に見えてくる。迷いなく欲のままに動いているようで、しかし彼自身が明確に認識できずに手を出せないものの周りを漂うような様子に、彼は今何をどう思っているのだろうかと惹きつけられるようだった。思いがけず、ラモンとの距離の揺れが情緒たっぷりで良かった…。

感情や行動が想定の横を行く感じ、また見目の麗しさに無垢を感じ取ってしまうように、危うさにも美がある様に撮られていて、なかなか好きな作品だった。色使いもいいし、音楽がとても好みの感じで、大好きですね。ダンスもとても癖になる感じで、良い。

『ナポレオン』観た

ナポレオンの心を占めたのは、ジョゼフィーヌと戦争。個人的で卑近なものと、他人と欧州の命運を巻き込む重大ごと。この二点を対比させることで、偉大な英雄で皇帝に上り詰めた存在の滑稽さと虚しさを焦点にした作品という印象。普通の伝記スペクタクル作ではない。

ナポレオンとジョゼフィーヌの愛憎のような主導権争いのような、超パーソナルな関係変化のドラマ、私的には好物なので面白かったけれど、期待を越えるまではいかないかな…という感じ。史実ではジョセフィーヌが年上なので、ホアキンとヴェネッサ・カービーだと絵的に違和感はぬぐえないんだけど、ヴァネッサの堂々とした演技と雰囲気、ホアキンの甘えとナイーヴそう性格をみせる演技でかなりカバーしてたと思う。ホアキン、こういう役上手いな。

戦闘場面はさすがのリドスコ監督、壮大でリアリティあって見たいものを見せてもらって大満足です。映像もリッチ。景色のでかさと泥臭さ、本当に良いよねー。主にアウステルリッツとワーテルローの戦いを取り上げ、本当にこの二つは見応えあった。

『マディのおしごと 恋の手ほどき始めます』観た

金に困った三十路女が金持ち夫婦の内気な息子の筆おろしの仕事にありつくラブコメ…とひどい倫理観の設定なのだが、これが案外真っ当な作品で。後半どんどんきちんとしたところに落ち着いていく。いいじゃないのこれ。

マディがパーシーの幼さに一切つけ入らないところ(訴えようとするのは男の部分に。しかし強引すぎるw)、年上の方がひどい目にあうユーモア担当、打算とロマンチックの狭間でてんやわんやするうちに傷を負った者同士の心の交流になっていくのが良いよね。最後はパーシーの気持ちを思って少し辛くなった。久々に人と親密になるのっていいよね…と自然に思った。素敵な作品だよ。

ジェニファー・ローレンスがもうめちゃくちゃ体を張っていて凄い…!乳の振り乱し具合に本気を見た。海は…海でそれやられたらそうなるわな、仕方がない。笑った~

当然演技も良くて。ピアノの場面の感動と喜びと少しの罪悪感と戸惑いの表情(と私は見た)は流石。こちらも感動してウルっときた。重い哀しみもどこか乾いた感じを漂わせるのが上手いし。彼女の人との距離の見せ方が本当に好きだ。

配信スルーで期待してなかったのに、楽しく素敵なところのある作品でなんだか嬉しかったな。

『ワーキング・ガール』続き

ラブコメ得意じゃない者としては、この作品は登場人物の性格も恋愛的動向も落ち着いていて、見やすかった。彼氏とのプロポーズ展開は何とも苦い空気が漂っていたね…「いつも自分を一番に考えてるものな」ってお前の方だろ…と言いたくなる彼氏の女見下し感とかなんかリアルっぽいな…と見ていた。

ハリソン・フォードが取引先社長に、下半身で考えてると良くないぞ的なことを言われて、その言われ方も時代だなと思うけれど、君たち成功の予感と恋愛感情がないまぜになって取引先の建物内でいきなり盛り上がっちゃってたから、そう言われる隙もあるよね確かに…と納得しました。ちょっとね、最後の主人公逆転劇の説得力がぼやけるのだよね…。

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『ワーキング・ガール』観た

仕事と人生を頑張りたいのに、社会からは女だからと、女上司からは秘書だからと侮られ、頭にきたので勝負に出てやる…ってのは良いけど、組織に属していて取引相手もいる中での偽装と出たとこ勝負は、発覚した時のダメージを想像してしまい見ているのが無理…ストレス…他の話が楽しくても気になって駄目だ…!主人公、胃が痛くなるとか言ったけど、全然そんな風じゃないだろが、肝が据わりすぎだよ!

運と”実力"で乗り切るのが良かったね。「仕事」コメディで期待するところが見れて良かった。真面目に仕事熱心なのも描かれているし。あと、主人公がよく気が回るのを描いた上で、自分と同じ立場の者を慮れる場面があるのが素晴らしかった。一番好きな場面だ。

爆発したんかというくらいの髪型とメイク、肩パットがすごいのがとてつもなく80年代!という感じ。でもこんな感じで労働してたのなら、とても自由だなとも思う。それでも通勤風景は労働者で、ちょっと感慨深い。
ハリソン・フォードがオフィス(あのガラス張りの)で着替えて裸体が見えると女性陣の歓声が上がるってのも時代を感じる。そんな訳あるかい。ファンタジーだよねー

『テノール! 人生はハーモニー』観た

下町育ちのラッパーが偶然オペラに出会い、才能を見いだされ、オペラに惹かれ、歌手の道を駆け上がる。畑違い、社会階層の違いを乗り越える王道展開で安心の楽しさ。

この手の作品って主人公が挫折を乗り越える時に、階層の差を越えた共感とか、家族やメンターの助力など「孤独ではない」ことが取り上げられるのが多いかと思うけれど、この作品は自分の居場所がないと思う主人公に「自分で立て、その場所が居場所だ」と強気回答をするのがちょっと独特で面白かった。「自分の好きを信じて進むこと」に焦点がある作品なんだよね。下町の文化・生き方よりいわゆるハイソな文化に惹かれる、アイデンティティの葛藤。そのドラマが、悪く言えば浅い、良く言えば湿っぽくなく描かれた感じ。

でも、階層差を感じる描写が色々あり面白かった。嫌な男がいい奴で、優しい彼女が自己中パリピな意外性も楽しい。

オペラの歌唱に触れて感動する様子、先生が彼の表情を確かめる様子がしっかり表現されるのがとても良かった。先生の踏み込みすぎない距離感も心地よい。フランスっぽいなー。

お決まりの主人公の隠れた才能が発見される場面、あれが特に鮮やかでねー。観ていてしっかり「おお!」と感じる。冴えた出来だと思った。面白かった。

『ベネデッタ』観た

17世紀ペストの時代、信仰心というか"神がいる状態"を信じるというか、とにかく信じぬく人間の圧倒的強さを見よ!という感じで、ベネデッタのブレない自信と信心で権威を掴みのし上がっていく様に、周囲も観客も震える作品だった。己を生きる事にこうも真っ直ぐだと、そうか行くところまで行ってしまえ!と応援するような、楽しくなってしまうね。

彼女の奇跡は本物か自作自演か?と疑いながら観るわけですが、個人的には途中からキリストの幻視が無くなった辺りから距離が出てきて自作だろうと解釈したけれど(幻視している事すら疑いの余地ある)、ベネデッタの揺ぎなさ、欲すらも信心で包み込んでしまう力強さに、どちらでもいいや…!という気分になるので面白い(そういう作りになってたと思う)。
幻視のキリストがとても俗っぽくて。彼女の願望だよなあ。

教会のビジネス側面、信心なぞない修道院長をシャーロット・ランプリング様が締まった表情で魅せる。一瞥の冷ややかなこと。醒めながら最後にベネデッタの枠に押し込まれていくのが、いやー面白い。
女性の全裸がばばーんと堂々と登場するのも清々しくて良いね。

『レンフィールド』観た

ドラキュラってパワハラ・モラハラじゃね?と気づいた下僕が共依存から自由になるため闘う!その過程で人体も派手に粉砕!血飛沫とびちる!という感じのポップさと真面目さが良い塩梅の映画でした。

共依存からの脱却過程が結構しっかりしていて。自助グループに参加する。共依存関係と自己尊重の気づきからセルフケアへとか。甘言と脅しを使い、恐怖・恥・罪悪感を植え付けるドラキュラのモラハラバリエーションも豊か。

共依存関係の見せ方がやや物足りず、ホルト君の気の毒演技力でカバーしてる感じが惜しいかな…。下僕の能力ももう少し見れると楽しかったな。

・ホルト君の、屈しない警官かっこいい…ほわぁ…なってるのがいい。キュートだね。気の毒青年役が合うよねー
・ニコラス・ケイジの「自分は全能なる存在だ」の台詞中に「ウーッ」って地味に興奮する演技、いい。楽しい。ああいうケレン味本当に上手。もっとやって。
・マフィアの坊のチャラいチンピラ具合がいい。マーク・ゲイティスさんに似てる。
・マフィアの母ちゃんがハスキーで強そうなのがいい。
・冒頭の古い怪奇映画演出の質がいいし、エンドクレジットもこだわり。
・勢いよく人体破壊されていくアクションが軽快でいいね。人体爆発!
・腕ヌンチャクは笑う

『ベティ・サイズモア』観た

夫の殺害目撃という強ストレスのために妄想の世界に逃避し旅に出た女、その女を妄想しつつ追う殺し屋のロードムービー?な人間ドラマ。ほんわかゆるコメディな空気を切り裂くように勢いのあるバイオレンスに絶句…!この独特の雰囲気がすごい。面白い。

妄想・虚構に逃げる姿がスリリングで痛々しい、のではあるが、妄想・虚構を愛し行動したのは立派な力でもあるからと肯定する素敵さがある。救って救われるのがモーガン・フリーマンだから故の説得力でねじ伏せる感はあったけど。
道中のバーの女性店員が一度きりのローマの旅を語るのがとてもとても良かった。共感とその後のかばいも最高。だから最後にベティが旅に出ているのが嬉しい。逃避の最中でも、人生での変化繋がっているのがね。

ドラマの俳優達との絡みは、病的な妄想だといつ判明するかハラハラして嫌な感じだったな。空気がおかしくなる予感というか。ねぇ…

お!アーロン・エッカートだ~と思ったら最低のどクズだしいきなりエグい暴力に遭うしで困惑w オセージ族の話が出てきて、花殺し月の殺人を観たところで予想外にタイムリー…と思ったらこれだよ。一応差別批判の文脈だったな。
ゆるゆるファニーなのにスリリングでどう纏めるか予想がつかず、不思議に面白かった。

『PIG ピッグ』観た

たしか宣伝では「俺の豚を返せ」「リベンジスリラー」とうたっていたはずだが、実際は愛するものに素直すぎる男の静かな悲哀のドラマじゃないですか。すごい好きだった。
終始ニコラス・ケイジが内に感情を抱えたまま表情硬くうろつくのが流石の演技力。そのロブの過去の事情がじわりと明かされるにつれ、愛する者・ものへのひたむきさとその結果の悲しみが見えてきてね。純粋さがすごいんだ…出会う人々がその姿勢に圧倒されていくので、まるで徘徊する薄汚い伝説の聖人の様で。説明しすぎない想像する余白があるのが、余計に謎めいた感じにもさせるんだよね。いやー悲哀だよ。
で、成り行きでロブの相棒になる軟弱青年アミールを演じるアレックス・ウルフ君が!とても良い!すごい好き。ロブを知るたびに呆然とする感じ、場の圧力や年長者に負けてしまう感じ、心の弱さと優しさが同居してる感じ、本当に良いなー。感化されて自ら料理に向かう、あの場面尊いよね…。
予想外に好きな作品で当たりだった。ほくほく。

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