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『プリシラ』観た

エルヴィスの隣にいた時間、少女から傷ついた大人へ。年上の男に惹かれた大切な記憶と、彼といることで変わっていく世界への不安と。彼女にとっては確かに大切な時間・記憶なのかもしれないけれど、そんなに孤独で、くつろいだ気持ちで側にいられないなら早くやめた方がいいんじゃないのかなー、早く気づきなよーと思い続けて観ていたよね。
好きになってしまったのだから仕方がないのかもしれない、そうならば人を好きになるってとても不自由なことだ。

憧れが抑圧に変わっていく過程、そして精神的自立へと向かうその心が繊細に描かれていたので面白かった。

エルヴィスの自分本位で支配的な部分と、優しく紳士的な部分がいい具合に描かれていて、ああこういう複雑さに惹かれると同時に抜け出せなくなるんだろうなーというのも大変わかりやすかった。

プリシラを演じたケイリー・スピーニーが非常にかわいかった。登場場面の孤独な少女の背中、表情がすばらしくて大好きだ。

所々で(『エルヴィス』で出演していた)トム・ハンクスの、大佐の顔がちらついて、いいんだか悪いんだかw

『RHEINGOLD ラインゴールド』観た

実在のクルド人ギャングスタ・ラッパーの成り上がり物語に着想を得て。いきなりイラン革命でのクルド難民の闘争から始まるのがもう壮絶。なのだが、その後は流れるようにジャンルを横断する感じが楽しい。なにせそこからめちゃ売れたラッパーになるので。

上流階級だったはずが、亡命、家族の軋轢、不良、ギャングへと凄いスピードで突き進んでいくのだが、主人公"カター"(危険なやつ)がどこか素直であっけらかんとして超絶行動力があるのと、ちょっと乾いたユーモアある描き方なのが面白い。ギャング生活は特にコミカル。でもこの流れるような楽しさの中で、難民の苦難や貧困、各国の社会情勢に生き方など読み取れるようになっていて。そういうのも面白さのひとつなんだよね。
音楽への熱は細々と持ち続けているよう(音楽を学びに行くのはマジで感心した)、いやでもちょっと流されすぎじゃね?いつラッパーになるのだ…と思いつつ、最後にはああこの人生だったからこの音楽なんだ!という地点にたどり着く、ちょっとした感動と高揚がある。CDを愛おしく持つカターの姿よ。

そんな下品なリリックを書く子に育ててない!ってイマジナリー母ちゃんに言われ書きなおすのが好きです。カター、本当に素直。

『アイアンクロー』観た

「家族」と「強くあること」と「成功」が父親の執念で固められた呪い。肉体は屈強でも心はボロボロ。「強さ」とは何なのだろうと考え込んでしまう。あまり連鎖的な不幸の数々に大変しんどくなるが、不穏で陰鬱な作品で好みだった。胃のあたりがぎゅっとなる痛々しさ…

冒頭、リングと父親の顔(ストンピング的なことをしている最中…)がオーバーラップする時点で、これは執念深くきつい内容になる…!とわかる仕様、良いですね。
父親の「プロレス=強くあること=成功」それで「家族が幸せでいられる」という図式をそのままに身に着けてしまった息子達。しかし、彼らは本心でその図式を望んだわけでなく苦しんでいるのだが、自分の感情をわかっていないというか、どう表現すべきかわからず困惑し次々と壊れていく様子を見つめるしかなく…という具合なので、なかなかえぐってくる作品。
主に男らしさの呪いなのだが、自分には母親の態度もかなりきびしいと感じた。信仰によって目の前の問題から逃げてしまっている。本当に仲の良い家族なのに中身がこんなにも脆い、アメリカの一面でもあるのだろうか…とも考えた。

恐らく一番優しいのだろう"長男"を演じたザック・エフロン、苦痛、嫉妬、混乱などの感情を繊細に演じていて素晴らしかった。

『死に方がわからない』読了
つづき

職業柄、死亡の前後の面倒くささは少しだけ垣間見れるので、書かれている内容もやっぱりそうかーと確認する感じのことがらが多かった。

それでも、緩和ケア病棟でも死ぬまで入院するのが難しい仕組みになっている(国の方針として変わっている)ことは、改めて事前に知っておくべきだなと思った。あとは、現在は検体への提供が余っているのは知らなかったので、少し驚いた。葬儀費用がかからない上に、利用後の遺体は丁寧に扱ってもらえるということで人気らしい。なかなか世知辛いことだなぁ。

とにかく死んでしまえばどうでもいいという人以外は、自分の意思を形にして、的確に伝わるようにするべしということですね。おいおい取り組みたいね。

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『死に方がわからない』読了

独身、子なし、きょうだいなし、ついでにフリーランスで組織に無所属、とてもインディペンデントに生きる著者が「腐敗するまえに見つけてもらい、人生の後始末をきれいにして逝く」ために具体的に色々調べて考えた実用エッセイ。ポジティブ。

自分もかなり著者に近い状況(になる予定)で、全く他人事じゃないので楽しく読んだ。でも今は誰かがいる人も、頼れる先がなくなる可能性大なので(そういう事も書いてある)人生をきれいにフィニッシュさせたい人には参考になると思う。

著者は腐るのは絶対嫌派なのだが、自分は腐るのは仕方ない・諸々の死後処分も行政の手になるだろうな派なので、考慮しなくても良さげな事もそこそこあり。まあでも、処理を担当した人がスムーズに作業できる程度にはしておきたい。自分に重要なのは死ぬまでの助走期間の生活の質低下をどれだけ防ぐかだなと思った。そこは真剣に考える価値ありすぎ。

積極的に死にたくはないが長生きしたいほど悔いもない、若い頃仏教に接した上での死生観なんかが自分と近く、ニヤニヤ共感しながら読んだ部分もあり。
人との繋がりが必要ということが揺るがぬ問題なのだが、今のところそれは無理、今後の課題!と留保する著者の姿勢にも共感。難しいものは難しいんだい。

『ブラッド・スローン』観た

アメリカで刑務所に入ったら終わり、ギャングに関わったら終わり映画。人生の転落とはこういうことだ!という感じでつらい。いや、面白かったけれどね…。
よくアメリカでは刑務所に入ると無事に過ごすことはできないというが、なるほどですね…な作品。

主人公はエリートだし、頭を使うべきこともわかっているので、その場その場では身を護るため最善の選択をしているのだが、結果はすべて泥沼への一直線。これはもう転落することが決まった構造・社会のルールになっているので、一度そのレールに乗ったら終了という感じ(もちろん法律や刑務所によるだろうけど)。この状態を改善するにもコストが見合わないのかな…恐ろしいなアメリカ。

ムショでは弱みを見せたら終わりという助言→初日から実感→いきなりのピンチで攻めるしかない→悪目立ち、という展開が鮮やかにわかりやすく提示されるので、あっ…これはアカン…と絶句する。不運とはこういうことだとわからせられてしまう。おおぅ…

行動や経緯もスリラーらしく手堅い見せ方で面白い。主人公がもともと一般人なので、最後まで行く目的や心情も理解しやすかった。若者に「巻き込まれたんだろ」というのが切なかったな。

そして、飲酒運転、ダメ。ゼッタイ。映画でしたね。

『ダ・フォース』続き

BLMの動きの中でのNY、警察を舞台にしたのが複雑で面白かったのだが、なによりも驚いたというか強烈だなと思ったのが、あの街のアメリカの人権意識の強烈さ。(フィクションだが、取材して書かれているはずなので相当実態を反映してるのだろうと思われる。)主人公がわが街の社会を紹介する時の人種や系統の羅列がすごいし、兄弟同然の仲や恋人であっても意識の溝がどうしてもある。また人種だけでなく様々なくくりで身内意識を持ち判断していて本当に強烈。様々な背景を持つ者たちが社会を形成し生きる上での知恵なのだろうが(構造的差別の影響もありそれも問題だと思うが)、ニューヨークまたはアメリカで生きるの本当に苦しそう…と思ってしまった。身内意識自体は理解できても、生活の中での程度の激しさは実態に触れてみないとわからないし何も言えないや日本の私は、とも思った。

あと、主人公の生きる中で全てをコントロールしようとする意識がまた強烈で、それによって自縄自縛になっている面もあり、いやぁ地獄だなぁと、楽しくないけれど見て読んでる分には興味深くて面白かった。それってアメリカ社会の意識でもあるのかな…など思ったりもする。

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『ダ・フォース』読了

 「いかにして人は一線を越えてしまうのか。一歩一歩越えるのだ。」

前に1/5ほど読んで挫折したが、今回は完走。タイミングというものも大きい。が、この作品自体が進むにつれ熱量が上がりカオスと悲哀が爆発する大変面白いノワール、警察小説であった。

主人公はNYPDで辣腕をふるう白人の汚職警官、その日常、秩序を維持する"王"の苛烈な自意識がずらずらと開陳される前半。その中で一つの行動があまりにさらりと描かれ、いやぁさすが汚職のレベルが違う…と辟易。

しかしこの軽く見える一件が、自業自得の転落の道を熾烈にする問題であり、かつなぜ主人公は「警官」であり続けようとするのか?を語るもの…というのが大変面白くて。堕落し腐った悪徳の姿にも一抹の憐れみ切なさを感じるのを止められない。

約束された破滅の中で主人公が必死に汚れた手札を切るたび流れる血、司法全体の腐敗、街の腐敗、人種の軋轢がうねり絡み爆発する終盤のカオスなドライブ感が読ませる。怒りと後悔と矜持、やるせなくて涙が浮かぶ。

社会の腐敗と正義の堕落を徹底的に描きながら、それでも最前線の「現場」に臨み続ける者への敬意がある作品だった。あの序盤にしては意外にも読後感が悪くないんだよね、熱量と苦しい解放に放心するけれど。

『真夏の夜の夢(1999)』観た

シェイクスピアの戯曲、名前と妖精のパックが出ててんやわんやするということだけしか知らなかった作品、複数のカップルが魔法ですったもんだする、なるほどこういう話なんだね。オベロンが自己中、さすが王!喜劇で微笑ましくて普通に楽しかった。

台詞は演劇的、セットや衣装のこじんまりとした感じがこの話のファンタジックさに合っていて良かったと思う。その中で自転車ってのも意外で面白い。安っぽい感じもなかったし。衣装が凝っていて楽しいよ。ミシェル・ファイファーの妖精女王タイターニアが艶々プリティでとても良い!

2組のカップル4人が泥まみれになる勢いがすごい。オベロンとパックが「人間とは愚かなものよ…」となるのが納得の醜態w
でも夜が明けた時のまるでニンフな姿態が神々しい絵画の様で良かった。

あんなグダグダな職人たちの演劇で、いきなりサム・ロックウェルが演技で泣かせにくるとは思わなかったので嬉しい驚き。おいしい役だー。
クリスチャン・ベールだけ魔法かけられたままなのも愉快でかわいい。スタンリー・トゥッチが最後までキュート。

『デューン 砂の惑星 PART2』観たのでメモ

1は、映像がきれいだけどもっさりしていてあまり面白くない映画という印象だったので、それよりは面白くなっていた、個人的には。1の方が好きな人もいるだろうな、という感じだ。

話の展開が動くのと、チャニへの視点が多かったことが面白いと感じた大きな理由かと。信仰と戦闘の中で救世主が誕生する事への疑問の視線、現代の鑑賞者の感覚担当。あとポールの人間性を描く補助。
ポールの情緒の動きがあまり描写されないんだよね…予知に抗っているけどなんだか一面的だし。それでも1よりは主体性があるのでやや面白い。

アクションは1よりかなり観やすくなっていた。とても良かった…とは言えないけれど。
カットの長さや切り替えも、もったいぶった感じが減っていて観やすいと感じた。

世界観を示すような絵面は1より減ったけれど、まあそれは…1で映像や画は綺麗なんだけど全然エモくないんだよな…と思っていたので。

編集や映像のゆったりして美麗なのが、情緒や壮大というよりも重鈍に感じられていたのが減った、個人的には改善された印象かな。

音楽、音響は良かった。重低音でデュルデュルドコドコするのが話を煽っているので、結果劇場で観て良かった。

『アメリカン・フィクション』続き

アメリカでの黒人の状況を扱うこの作品をこう観るのは良いことなのかはわからないけれど、自分の場合だと「女性」のステレオタイプに反発したい気持ちが近いところかな、と思ったり。恋愛してない、結婚してない、子供いない、女友達との付き合いは淡白、所謂女性らしいもの・ことは別に好きでないなどなど…の中で、女性らしさを求められたら、うぜーーーー!それは私のリアルではない!!ってなるし、自分の中に存在するミソジニーはそういう所から来ていると思う。拗らせてはいけないと思っている。

主人公が嫌なやつ、というか嫌な所のある人間が正確だね、なので好みの作品だった。
あと、兄弟の関係が割となんでも言える感じで良かったなと。それは中年になったからなのかもしれないが。

表現物をジョニーウォーカーで例えているところが、商業性と芸術性のせめぎ合い的な様子で面白かった。表現者自身も、売れることと、表現物が受け入れられることと、評価されること、がごっちゃになるんだな、とかね。そこにアイデンティティが関わってきたりして、大変だなぁ。

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『アメリカン・フィクション』観た

黒人のステレオタイプが詰まった"ゴミ作品"なんか誰でも書ける、と売れない黒人作家が当てつけで書いた小説が売れてしまうアイロニカルなコメディ。

仕事の停滞に家族の介護に…と中年の普通の問題に直面してる主人公が、世の中が求める黒人の物語に、ステレオタイプに俺を嵌めてくれるなという気持ちがよくわかると同時に、比較的裕福でエリートで高尚な意識をもつ人間の嫌味な見下しがあるのも面白くて。
彼は白人の意識を内面化して黒人嫌悪をしてたのだと思った。選考会の時に彼が目にした写真が表すのがそれなのかなと。自身のその内面化に気づいても、属性は、黒人であることは変わらない。"世の中の求める黒人"に自分を明け渡しながらも戦っていこうという姿が、嫌味は消え爽やかな哀愁ある中年の成長という感じで、面白かった。

大衆に受けなければ表現し続けていけない?とか、作者と表現されたものとは一体か?とか、興味深い事が盛り沢山。表現はステレオタイプを壊しもするが、強化もするのが難しいところだよね。映画を観てるお前もそうじゃないの?と刺してくるところも良いよ。

白人の言う多様性のお粗末さとか、結局差別への罪悪感を拭うためにまた黒人を使っている等はブラックなコメディとして面白かった。

『ザ・ファーム 法律事務所』続き

・ミッチと兄ちゃんの関係がなんだか良かった。問題はあるけれど、妻とか親族には隠していないのが、関係は悪くないってことなんだよな。良い。

・タミーがめちゃくちゃ仕事が出来るのいいな!探偵事務所勤務とはいえただの雑用係秘書かと思ったら、能力ありすぎる。只者じゃなかった。

・別れた元旦那もタミーが言ったとおりなんでもしてくれてるのも好き。確かにプレスリーで一発でわかるのもいい。

・エド・ハリス、最初殺し屋かと思ったのですが。雰囲気怖い。じゃなかったとしても、お仕事的に目立ちすぎでは…トム・クルーズとはまた別のオーラがあって。
そういや、トップ・ガンでマーベリックに一発かまされてたように、ここでもミッチにやり込められてるじゃんねエド・ハリス…。

・本当の殺し屋の方はまたわかりやすくて良い。

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『ザ・ファーム 法律事務所』観た

好待遇には気を付けて、やたらと"ファミリー"と言う奴らも危険だよ!映画。
司法業界のサスペンスながら、罠にはまった新卒弁護士の主人公が七転八倒し回避しようとする様は探偵アクションものの様なスリリングさ、しかし決め手は法の力を使うというのがきちんと面白い。主人公の人となりもドラマで見せるから、彼の心理と行動が理解できて面白い。弁護士という職業に抱いた希望と目の前の脅威との板挟み、ロースクールをまさに卒業する時、職へ踏み出す第一歩の選択になるのが効いてる。宣誓の瞬間の心のジレンマ、味わい深いねぇ。
この当時のトム・クルーズの美貌は無敵な感じがする。熱意も怠惰も強さも弱さも愚かさも賢さも、全て彼の守備範囲に思える。

怪しげな先輩弁護士のジーン・ハックマン。作品をいくつか見た印象は粗暴でギラギラしている感じなので、今回の役は最初から嫌な緊張感がありすぎるし、女遊びも激しいってのにはおわぁぁ…と思っていたが、終盤急に見せる哀しさがかえって強調されるようで驚いた。罠の先を進んでしまった先輩の虚無感。面白かったな。

『ジャーヘッド』観た

戦闘シーンがほぼ無い戦争映画。湾岸戦争での海兵隊員がすごす延々とした"臨戦態勢"の時間、世界から切り離され、余計なことは考えないように、駒として戦闘意欲を失わせないための時間、恐怖や退屈を見ないように兵士自らその異様な時間に馴染んでいくようでもある。差別意識すらもそのままコミュニケーションの道具になる、ホモソーシャルな空間。
ほんの数日で敵を殺すことなく終わった戦闘、それでも世界と隔絶された場で命を晒し、惨くあっけない死を感じた者達は、心に頭に戦争を植え付けられ、もう今までと同じ日常を感じることはできない。
帰国後のあのバスの場面の空虚さがたまらない。戦場を知らない者達から浴びせられる称賛と仲間意識の滑稽さ。
戦闘だけではない、戦争が兵士の精神に与える影響を描いた興味深い作品だった。
ジェイミーフォックスの三等曹長が、こんな最高な景色を見れるから軍にいる(意訳)と言っていたが、砂漠と燃える油田の画が幻想的で確かに美しいんだよな…と思ったら、撮影がロジャー・ディーキンスなんだね、それは曹長の意見に納得してしまうわ。

不真面目な感想。
ジェイクが猛烈なテンションで裸踊りをしていて、すごいもの見せてもらった感。クリスマス帽子の使い方〜。いやーはじけてる。おもしろ…

『コヴェナント 約束の救出』観た

政府も軍もよ、約束を守らないってのはやっちゃぁいけないことなんだよ!!とガイ・リッチー怒りの力作ミリタリーアクション。冷静に熱く、面白かった。
米兵の命を救ったアフガニスタン現地通訳が亡命もできずタリバンに狙われ危機にいるため救出に赴く話。この米兵と通訳の関係に焦点があるので、どうしても美談くさいのだが、湿度の高い熱い男の物語にはしないよう努めている姿勢も見られ、そこは好感を持った。特に通訳(ダール・サリム)が米兵を救う道程がとても良い…。作戦後に米兵に声をかけられない、峠で打ちのめされる姿、緊張感の中にこういう描写があるの本当に良いよね…
米兵の方も、友情ではなく人情、寝覚めが悪い、が主な動機なのがいいし、ジェイクのキマった目のキレ演技が見れて大変満足でした。好き。
現地協力者に対しビザの発行も満足にせず、放置、撤退し、さらに彼らの命を危険にさらしているアメリカ政府への批判精神があるのは確か。それでも批判精神がぬるいと言われても仕方がない面もあるにはある。タリバンもPMCも描写が一面的だし、節度を保った本編を壊す様なエンドロールの湿っぽさ。それでも、恩義を返さず約束を守らない国家への人としての素朴な怒りも大切なものだとも思うしね…。

『落下の解剖学』観た 

転落死した男の妻が殺害容疑で裁判となる。裁判は「妥当と思われる真実」を決めるものであり、このように人間の真実は「解釈」によるのだ…、という新鮮味があるわけではない話ではある。
が、面白いと思ったのは、予想以上に法廷劇で、特に「夫婦関係は第三者が完全に理解できるものではない」ということを粘り強く見せていたこと。また、尋問の中で、多国籍社会、性別役割が自由になってきた社会であってもまだ存在する難しさがあると描いていたところ。よくあることだが、観ている側の心証が揺らぐ、自身の偏見に気付く。個人的に法廷劇に求めるものの一つなので大変面白かった。
のと同時に、この尋問が息子の前で開かれていることに胸が締め付けられる思いがした。親のグレーな部分が露わになるのを知るなんて。しかし次第に鍵となるのはこの視覚障害の息子であると見えてくる。撮影の仕方でもそれがわかる。判断がつきにくい中で解釈を「決心」しなければならない。我々も本質的には他者を解釈しかできない以上、決心して生きている。そう考えると、息子は我々を表してもいたりするのかも、しれない?そしてこの作品自体も、皆さん「決心」してくださいという様な幕引きだなと感じた。

『異人たちとの夏』読了

映画の予習に。
手放しの愛情でも、含みのある感情であっても、「自分を大事にしなよ」と言ってくれたから、これからも生きようと思えた、孤独な男に訪れたひととき。"異人"との触れ合いであることに哀しみと寂しさがあり、でもこんなにも温もりを感じもする。疑い恐れながらも、心地よさに喜ぶ姿、その心にほろりとする。良い物語だった。
ファンタジックであっても、主人公の心理や心情が実感しやすく、情景も浮かぶようで、上手な脚本家の手による文章はこうなのだなと思う。ケイだけは安直ではないの?とどうしても思ってしまう。であっても、この切なさと温かさは良いものだ。
アンドリュー・ヘイがこの温かいセンチメンタルをどう翻案しているのか、とても楽しみですね。

『ボーはおそれている』感想続き

アリ・アスター監督の作品は狂気だ闇だと言われるけれど、こうやって虚構で自己セラピーができている点で健全だと思う。今作でユダヤ人としての暗喩的なものがあるとするなら、なおさらそう感じた。イスラエルの現状などを思うと余計に。

最初のアパートのパートが一番面白かったかな。とてつもなく嫌。あの街のヤバさ、半端ないよね。狂気と不安というならあそこが一番だと思った。不条理に波のように押し寄せ加害される。絶対に住みたくない。
お風呂のシーンは気持ち悪いわ面白いわでとても良かったですね。怖いよ。

よそのお宅パートはやんわり囚われている感じが嫌な感じでしたね。リビングに息子の肖像や部屋があのままなど、嫌な感じ。これも最後を予感させる。

屋根裏のことはダイレクトすぎて笑った。こいつが!こいつが!ってあんなにグサグサしてw
愛憎により主体性を奪われ、それがかえって愛憎を深める、罪悪感、それは仕方がなくて謝る類のものでもない、しかし良くもないから…消す!のも面白かったですね。清々しい。面白がってていいのかとちょっと思うけれど。

『ボーはおそれている』観た
帰りたくない実家に帰るときの長い長い精神の旅路で、母親と息子という関係の呪い、相互加虐についての自虐セラピーの結果出来上がったものがこれです、という感じか。正直映画の内容自体より、というか内容を踏まえた上で、これを作る人間としての監督の方に興味が深まるよ。
面白くはあった。ストーリーは難しくないのだけど、とにかくボーがとことん直面する受難の状況の羅列という感じなので、一つ一つは悪夢的で面白いのだが、展開の連なりとしてどうも映画的緊張感が無いように思えて少し退屈だった、個人的には。興奮や楽しさが足りない感じ。観る前に、ユダヤ人としての暗喩的だという話を見たので、言われてみればそうかもなぁと思いながら観る部分もあった。
最後の実家パートで結構直接的にこういう話です!と切れ味鋭くなり面白かった。親子の関係に留まらず、人間観へと広がっていく感じがするのが良いよね。罪悪感とか、愛とか誠実さとか言ってもね、こんなもんですって感じ。ですよね。不快には感じず爽快感はある。でも、表現の程度がすごいので、監督こんなに深刻そうで…大丈夫か?とはちょっと思う。

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