チェーン書店におけるヘイト本対応の甘さは、ジュンク堂の名物店員的な人の「言論のアリーナ」論が影響のひとつだと思っている。この福嶋さんという書店員は、端的に言うと「ヘイト本を排除せず、代わりにその周りに抵抗言論となるものを置くことでそこを言論のアリーナとする(=正しいほうが勝つのだから大丈夫=読者の知性を信じる)」みたいなことを提唱&実践した人で、これが業界内では「良い試み」として捉えられている節がある。本人からすればそんな雑なものではない、と言いたいかもしれないが、個人的には「その程度のもの」だと思っている。なぜならこれは結果として「やらないことの言い訳」として利用される「(都合の)良い試み」になってしまったからだ。
言論のアリーナ論は、それを正しく運用するためには(つまり反差別の意識と実践が社会に浸透するという結果を生むためには)、その闘技場を構築する書店員に相当な知識と経験が必要になる。ようは「あらゆるパワーバランスを把握する」ことが必須なのだが、そんな超人は当の本人ですらなれるわけはなく、単に「差別のこととかよくわからないし面倒だしやりたくない」人間が都合よく「言論のアリーナ論ってのがありましてね」と言えてしまうものにしかなっていない。アリーナ論を実践するには相応の(もはや不可能なレベルの)能力が必要である、そのことを明記せずにこの論をぶち上げたことと、それを称賛し続けている業界人(エライヒト)。本当にクソだと思う。