光ラハの少し不思議な話3
これは夢だ。夢の中でそんな風に思える時がある。今がまさにそうだった。
敵が襲ってきた。そいつは酷く硬くてオレが弓でいくら射っても刺さらず、当然冒険者の剣も弾かれる。
突然冒険者がジョブを変えて敵に殴りかかった。素手のところを見るとモンクらしい。
ひとしきり殴った後、くるりとこちらを振り返る。
「大丈夫だ、殴れる。殴れるなら壊せる!」
「んな訳あるかああああ!!」
満面の笑みでそう言い切る冒険者にツッコミを入れた瞬間、揃って吹き飛ばされる。
意識が暗転した。
気がつけば崖の上だった。目の前には崖にかろうじてしがみついている冒険者がいた。
慌てて駆け寄りその手を掴む。必死に引き上げようとするがぴくりとも動かない。冒険者がオレに懇願してくる
「頼む、頑張ってくれ!」
「当たり前だろ! あんた重すぎるんだよ!!」
「こういう時は、魔法の言葉だ! いくぞ、ふぁいとーー!」
「いっぱぁぁぁぁあああああ!!」
掛け声に応えようとしたその時、捕まっていた崖が崩れ二人して落ちていった。
光ラハの少し不思議な話3 その3
それからは気がつく度に船の上だったり、洞窟の中だったり、はたまた上空遥か彼方だったりとシチュエーションは様々だったが、そのどれもに冒険者が傍に居た。
だがそのどれもが冒険者はオレのことをラハと呼んだ。
冒険者がオレを庇い刺される。しかし冒険者を貫いたその剣はオレまで一緒に差し抜いた。
「無事か?」
「……ああ、あんたが庇ってくれたから」
「ラハが無事で、よかった」
オレの言葉に心底安堵したのか、口から血を流しながら冒険者は愛おしそうにオレを撫でる。
オレも気道を塞ぐように溢れてくる血を堪え冒険者の胸に頬を擦り寄せた。
ぐっと抱きしめ返し、薄れゆく意識の中ようやくオレは気付いた。
ああ、なんてことだろう! オレは、この冒険者のことが、好きなんだ。
光ラハの少し不思議な話3 その4
目を開けると見慣れない天井だった。硬い床から身を起こす。そうだオレはクリスタルタワーを封印して、それで……
チン!と甲高い音が響く。そちらを見るとテーブルに、椅子が二脚ある。
なんでこんなところに? 不審に思い、のろのろと立ち上がり近づく。
片方には誰かが座っているようだ。シルクハットを目深にかぶっている為その顔はわからない。
その手がもう片方の椅子を指し示す。どうやら座れと言われているようだ。
警戒しながらも腰を下ろすと目の前に暖かな湯気を立てるティーカップが差し出された。
とても良い香りに誘われるまま一口啜ったそれはまるで泥水のような味がした。ぐっと顔を顰め吐き出そうかと迷っていると目の前の人物が口を開く。
「どうだい? 素敵な夢だろう?」
目の前の人物のシルクハットが持ち上がる。そのシルクハットの下でニヤリと笑うその顔は冒険者その人だった。
オレの悪夢はまだ終わりそうにないらしい。
光ラハの少し不思議な話3 その2
ここは……
周りは自分の背丈よりも高い草で覆われていて道らしい道も見当たらない。
仕方がないので草をかき分け進む。しばらく進むと突如ガサガサと自分以外が草をかき分ける音が聞こえた。
音の方に向き直り身構える。その方向から現れたのは冒険者だった。
「あ、なんだここにいたのか」
あまりにも呑気な声色にオレの警戒も霧散してしまう。
冒険者に向かって一歩踏み出す。だがそこには地面がなかった。ぽっかりと空いた大きな穴に吸い込まれるようにオレは落ちていく。
「ラハ!!」
切羽詰まった声で冒険者がオレの名を呼ぶ。
そこでようやくこれは夢なのだと気がついた。だって冒険者は、オレのことをラハだなんて呼んだことなんてないんだから。