津原泰水『バレエ・メカニック』を読んだ感想
津原泰水『バレエ・メカニック』(早川書房)を読んだ。
サイバーパンクな幻想文学というのか、想像力を試されるSF小説だった。面白かった。
はじまりは東京の街で人々を襲う幻聴、幻覚。読者に向けた説明は少なく、説明してくれる場面でも理解しきれず、登場人物の考察によって朧げな真実を見つけていくような読み方だった。
パラパラと読み返していると、なんとなく物事が繋がって、全体像が見えてくる。それでもやっぱり分かったとは言えないな。
造形作家の父と、事故で植物状態になった幼い娘を中心としたお話なのだけれど、幼さゆえの真っ直ぐさや正しさに胸を締め付けられた。
時折、情景が浮かんできてはなぜか郷愁のようなものに支配された。フィクションなのにどこかで「本物」を感じていて、この感覚がなんなのかよく分からない。
三部構成になっていてどの段階も良かった。特に第一章の終わりで心を掴まれた。半分よりちょっと手前あたり。ここまで読んでやっと視界が開けたので、途中で読むのをやめてはいけない本なのだ。
全体としては悪夢のように混沌として不確かな情報で溢れているのに、冷静な語り口が状況を整理して、かろうじて現実に繋ぎ止めている。
難解でよく分からない部分も多いし、倫理観の壊れた性本能や生々しい衝動も書かれているけれど、読んでいてまったく苦にならなかったのは文章が美しいからか。内容は難しいのに読みやすいのが不思議だ。
テクノロジーが発達した世界では価値観も変化していくと思うけれど、そこに生きるのが人間である以上は根本的には変われない気がする。たとえ現実に生きて同じ対象を見ていても、隣の他人と認識が一致していると限らないのは今も同じだ。
以前読んだ同作者の『11 eleven』も好みだったし、他の作品も読んでみたい。
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返信
@KamoshidaKaoru おおお!そうなんですね! わたしはまだ二冊きりですが、美しいと思いながら読んでます。美しいの好きなんです。
蘆屋家の崩壊、リストに入れておきます!おすすめありがとうございます わーい