フォロー

読書備忘録『21世紀の世界文学30冊を読む』 

*新潮社(2012)
*都甲幸治(著)
アメリカ文学研究者で数多の翻訳を手がけるほか、何冊も文学ガイドブックを出版するなど現代の世界文学を伝える文学紹介者としても活躍する著者。本書ではアメリカ合衆国に関連する小説を軽妙洒脱に語る。アメリカばかりなのに世界文学といえるのかという疑問の声はありそうだが、特定の国の文学に分類するのは案外難しい。亡命する人。母国語ではない言語で執筆する人。帰化する人。他国の文化を書き続ける人。複雑な事情が絡み合い、特定の国にわけるのが困難な人はたくさんいるのだ。移民の国であるアメリカの作家を見てもそうした複雑な内情は多数見られる。例えばジュノ・ディアス氏はドミニカ共和国からの移民で、ラテンアメリカ文学とアメリカ青春小説と日本のオタク文化をスペイン語と英語の混淆文で執筆した『オスカー・ワオ』でピューリッツァー賞を受賞した経歴の持ち主でもはや何文学なのかわからない。このようにアメリカとの関係が深く、それでいて英語圏自体を多面的に捉える作品・作者を取りあげる本書は、固定観念を刺激し、視野を広げてくれる秀逸な案内書だ。

ログインして会話に参加
Fedibird

様々な目的に使える、日本の汎用マストドンサーバーです。安定した利用環境と、多数の独自機能を提供しています。