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読書備忘録『黒衣の女』 

*ハヤカワ文庫NV(2012)
*スーザン・ヒル(著)
*河野一郎(訳)
一九世紀の英国怪談を思わせる正統派の怪奇小説で、二〇一二年には映画公開されたことでも知られている。その古風な雰囲気はゴシック・ロマンスを基礎とする伝統的な怪奇幻想小説を愛好する人にはたまらない。語り手のアーサーは弁護士事務所を共同経営する再婚者であり、連れ子たちと平和な日常を送っていた。けれども彼の脳裏にはある陰惨極まりない光景が焼き付いていた。その忌まわしい記憶はクリスマス・イヴの夜に、怪談を語り合っていた子供たちから怖い話をせがまれた瞬間に再燃し、自分に取り憑いている怨霊を追い払わなければならないと決意する。ここから舞台は彼の見習い時代に移り変わり、死去したドラブロウ夫人の遺産を調査するため「うなぎ沼の館」に出向いたときのエピソードが語られる。ドラブロウ夫人の住居は沼沢地帯にあって、満潮時には通路がなくなり孤島同然になる。しかも突発的に海霧が沼地を包み込むので、幻想的にして不気味な様相を呈する。このあたりの洗練された自然現象の表現は印象的で、自然界の息吹に見えざる生命体を想像させられる。

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