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読書備忘録『服従』 

*河出文庫(2017)
*ミシェル・ウエルベック(著)
*大塚桃(訳)
大統領選挙でファシストかイスラーム主義者を選択しなければならない。こうした究極の選択を迫られたとき、自分は如何なる行動を取ればよいのか。この漠然とした想像を表現した『服従』は発表されるとおなじ日に発生したシャルリー・エブド襲撃事件もかさなり世界的注目を集めた。この偶然は小説の話題性と部数を膨らませるとともに、著者自身には広報活動の断念と警察保護下での生活を強いるという皮肉な事態を招いた。西暦二〇二二年のフランス大統領選挙でイスラーム同胞党が国民戦線を退け、フランスにイスラーム政権が成立。そしてパリ第三大学はムスリムでなければ教鞭を執れなくなり、ユイスマンス研究者として務めていたフランソワは解雇される。生粋の傍観者であるフランソワの目は変貌するフランスを捉える。視界に入る些細な変化。日常が政治と宗教に操作されている現実を、フランソワの現状を追体験して思い知らされる構成に不安を覚える。宗教、政治、文学における思想を絡め、欧州に蔓延する不安を浮きあがらせる『服従』は、混迷する世界情勢を象徴している。

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