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読書備忘録『マリーナの三十番目の恋』 

*河出書房新社(2020)
*ウラジーミル・ソローキン(著)
*松下隆志
小説家であり前衛芸術家でもあるモンスターの息吹を感じる。本作品ではペレストロイカ前の閉塞したモスクワを舞台に、愛を渇望するマリーナの恋愛遍歴が語られる。男との性交では絶頂に至れず、同性愛者として生きている彼女は複数の顔を持つ。文化施設でピアノ教師を務め、権力者たちと性的関係を結び、ソルジェニーツィンを崇拝して反体制運動に関わる。しかし利益を得るために奔走しても心が満たされることはない。鬱屈した日常は変わるどころか、二九回目の破局を契機に彼女はますます堕落していく。前半の筋を概観すると退廃的な官能小説といった趣がある。また後期ソ連の風景を浮きあがらせる固有名詞の洪水も効いていて、読み手はマリーナとおなじ目線で社会を眺めることになる。けれどもソローキン作品は常に読者の予想を超えていく。マリーナの運命はある工場の党委員会書記にして熱烈な共産主義者との出会いをきっかけに変化を遂げる。その変化とは如何なるものか。変化は如何なるかたちで表現されるのか。実験精神の塊といえる驚愕の小説世界。

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