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読書備忘録『裸のランチ』 

*河出文庫(2012)
*ウィリアム・バロウズ(著)
*鮎川信夫(訳)
一九六〇年前後のアメリカ文学界を賑わせたビート・ジェネレーション。その文学運動の代表的存在であるウィリアム・バロウズの『裸のランチ』はデヴィッド・クローネンバーグ監督が手がけた映画でも有名。それでは小説の方は如何なるものか。私自身は爽快感を覚える快作と受けとった。けれども非常に読者を選ぶ作品なのは間違いない。本作品に限っては「次に現れる文章を楽しむ」姿勢で読むことをおすすめしたい。作中に登場するウィリアム・リーの語りは麻薬を求めるものたちを捉え、幻覚と現実が入り交じる悪夢のような情景を描きだす。また、複数のエピソードで構成されている上、既製の文章を無作為に並べ替える技法「カットアップ」が使われているので、場面が突発的に変化するのも特徴である。このカットアップはバロウズの十八番であり、彼の創作活動の支柱にもなった。とはいえ原文の質と作者の運が試される偶然性の技法は正真正銘博打であって、本作品はバロウズの卓越した倒錯表現とカットアップが奇跡的に調和して産み落とされた異端児と見る方がよい。

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