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読書備忘録『ロシア怪談集』 

*河出文庫(2019)
*アレクサンドル・プーシキン 他(著)
*沼野充義(編訳)(訳者多数)
不勉強故にロシアと怪談の組み合わせに不思議な印象を抱いていたが、象徴主義の流行した二〇世紀前後のロシアでは、数多くの怪奇幻想小説が書かれていた。リアリズム文学のイメージが強いと、フョードル・ドストエフスキー、イワン・ツルゲーネフ、アントン・チェーホフといった作家が怪談を手がけている事実に意表を突かれるだろう。ところが彼らも霊的な恐怖小説の書き手なのだ。ドストエフスキーは『ボボーク』で墓場で歓談に興じる幽霊たちを、ツルゲーネフは『不思議な話』で死人に会わせる神業の持ち主を、チェーホフは『黒衣の僧』で優秀な学士に憑いた不気味な僧を、それぞれ卓越した文体でグロテスクなまでに表現している。このアンソロジーはロシア文学の奥深さを教えてくれる。もっともロシアの怪奇幻想文学は社会主義時代を迎えて下火になり、戦後文学に怪談が現れる機会は激減したようである。怪談集の大とりを務めるウラジーミル・ナボコフの『博物館を訪ねて』に一抹の希望を託して、また新たな恐怖譚が生まれることを願いたい。

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