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読書備忘録『中二階』 

*白水Uブックス(1997)
*ニコルソン・ベイカー(著)
*岸本佐知子(訳)
実験小説の話題には欠かせない名著。ニコルソン・ベイカー氏はアメリカ合衆国ニューヨーク州生まれの作家で、二〇〇一年には全米批評家協会賞を受賞した。けれども彼の名前は処女作『中二階』が発表された一九八八年には知れ渡っていた。この特異な小説が彼を時の人にした。ある男性が昼休み中ドラッグストアで靴紐を買ってオフィスに戻る。大雑把に説明すると本作品における出来事はこれしかない。オフィスに向かう途中、厳密にいえばエスカレーターを昇り、降りるまでのわずかな時間に想起される事柄、その脳裏をよぎる日常的記憶の断片にひたすら言及するだけで日本語訳にして二〇〇頁近くも費やすのである。また顕微鏡で覗き込むような微細な描写・説明の積みかさねが特徴で、注釈の割合が本文を超えることも頻繁にあるため読みながら幾度も目が点になる。本作品では注釈は本文に付随するものではなく表裏をなすものなので、注釈もまた本文と解釈して読むことが肝要である。この遊び心とも悪戯心ともいえる試みは当時のアメリカ文学界にかなり衝撃を与えたようだ。

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